エティエンヌ・ニコラウス・メユール(1763-1817)はフランス第2のベートーヴェンといわれている。存命当時はオペラが人気を博し、ベートーヴェンやケルビーニと並び称されるほどの名声を手に入れていた。しかし、作風がハイドンやベートーヴェンに似通うところもあってか、演奏される回数は少ないのが現状である。作品自体はとても良い。彼の代表作でもある4つの交響曲は日本ではあまり見かけないが、海外ではよく演奏される代物である。
 これだけ分かりやすくて、味わいのある曲があまり手付かずなのは、日本人が有名な作曲家の音楽に染まりすぎているのではないかと考える。確かに市場に出ている音楽の多くは良く知られた人たちばかりだ。でもそれは日本の市場の話。海外のお店は、有名・無名関係なく棚に並べられているらしい。売れる・売れないとかじゃなくて、本当にそれらの音楽を愛する人たちの為にそのお店は存在しているのだろう。そういった点でも日本の音楽市場は売れるものしか徹底的に置かない主義なのだから、こういった無名(日本では)作曲家の音楽を欲しがっている人がいても簡単に手に入れられないのが現状っていうものである。(2005年に施行されるであろう逆輸入CD等の禁止令が出てしまったら、手に入れることが出来なくなってしまう)
 堅い話はここまでにして、メユールの話に戻ろう。先ほども述べたが、メユールは4つの交響曲を書いている。4曲中3曲(交響曲第3番まで)はベートーヴェンが作曲した交響曲第2番と第3番「英雄」の作曲時期の間に書かれている。特に第1番と第2番は同じ年に書かれているから、彼もまた速筆な作曲家だったに違いない。交響曲第1番と第2番に関しては実際に聞いたが、第3番と第4番に関しては音源がないため(手元に)まだ聞いていないので、ここでは第1番と第2番について説明していこうと思う。


 

<メユールの初期交響曲 第1番と第2番>


 二つ交響曲は1809年前後に書かれたといわれている。二つとも作風はハイドン、モーツァルトの影響を受けていると言える。しかしこの二人の大作曲家以外にもあのベートーヴェンの影響をしっかりと受けている場所があるのだ。それはこの先で説明しよう。
 まずは「交響曲第1番ト短調」。第1楽章からモーツァルトを聞いているような感覚に陥る。優しい旋律が流れ出す。第2楽章はアンダンテ。この楽章の旋律も美しい。ハイドン後期交響曲を思わせる旋律だ。第3楽章はメヌエット。冒頭からいきなりピッチカートで演奏される。(これはチャイコフスキーの交響曲第4番の第3楽章の先祖か!)しかしずっとピッチカートで進行するわけでもなく、途中から木管楽器が入ってくる。なんとも聞きやすい楽章なんでしょう。
 第4楽章はしっかり語らないといけない楽章。この楽章こそがベートーヴェンの子供みたいな楽章なのである。何故そう言えるのかと言うと、冒頭からベートーヴェンの交響曲第5番、俗に言う「運命」の第1楽章「じゃじゃじゃじゃ〜ん」の形式とそっくり?なのである。(運命の方がこの曲よりもずっと後に作曲された)運命はあのフレーズをバトンリレーみたいに次々と受け渡していくが、このメユールの交響曲第1番の第4楽章も同じ書き方なのである。(同じ書き方と言うかフレーズまでもがそっくり!)このことは、ブラームスメンデルスゾーンと同じ時代に生きたシューマンが発見したと言われている。あのベートーヴェンが運命を作曲する前にこの曲を聞いていたと言う事は定かではないが、聞いていなかったとしたら、お互い二つの曲は全くの偶然でできたものなのであろう。
 続いては「交響曲第2番ニ長調」。これもまた全体的にハイドンやモーツァルトの影響をしっかりと受けた作品だろう。第1楽章も優雅な旋律が溢れ出す。第2楽章は明るめの葬送行進曲みたいな感じ。第3楽章もまた第1番と同じでメヌエット形式。今回はピッチカートではなく、全合奏から始まる。これまた聞きやすい楽章だ。
 この曲の第4楽章も完全にとはいえないがベートーヴェンの影響を受けたのか、いや、逆に与えたと言えるだろう。ベートーヴェンが作曲した唯一のヴァイオリン協奏曲第1楽章のティンパニの出だしとそっくりなのである。この曲の方がヴァイオリン協奏曲より先に出来ているから、これまたベートーヴェンが聞いて作曲したとは言い切れないが、聞いていたのかもしれない。この2曲はベートーヴェンの一連の交響曲よりも先に作曲されているので、ベートーヴェンも少しは影響を受けていたのかもしれない。

 メユールが第2のベートーヴェンだと言える事がお分かりいただけたであろうか。解説だけじゃつかめないと思うので、実際、音を聞いてみてください。なかなか手に入らない代物だけれども大きいお店に行けば1枚くらいあると思うから、買って損はしない。逆に新しい発見があり、勉強になる。ベートーヴェンが大好きな方、ベートーヴェンはちょっとカタイ音楽でなかなか入り込めないと言う方、メユールはどちらの方にもピッタリ。一度お試しあれ!!


オススメ演奏

交響曲第1番 & 第2番
演奏:ライン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ヨルゲ・ロッター
 メユールは実のところこの音源しか持っていない。なかなか見つけられなくて。(今も他の演奏を探している)収録曲は交響曲第1番と第2番。共に演奏は良く、二つの作品を知るうえで大変役立っている。曲の説明は↑で見ていただきたい。この音源は比較的どこでも見かけるので、入手しやすいかと思う。興味のある方は一度探してみていただきたい。
評価:★★★★1/2