ドイツを代表する3大B「ベートーヴェン、ブラームス、ブルックナー」の一人である、ヨハネス・ブラームス。彼は若くしてピアノの名手だった。名手だった事は名声を高めたが、彼の作曲技術の進歩には繋がっていなかった。彼はピアノが上手かっただけで、作曲に重要なオーケストレーションが下手だったのである。この状態で色々な作品に着手するが、彼自身かなりの遅筆で、なかなか作曲は進まずじまい。
その後、彼を偉大にしていく名曲たちとブラームスの人生を追っていこうと思う。


ハイドンの主題による変奏曲 作品56a
Variations on a Theme by Joseph Haydon, Op.56a

 ブラームスはハーモニーを巧みに使う巨匠としても有名だが、実は変奏曲の達人でもあったのだ。ブラームスは過去の曲を収集する人でも有名で、ハイドンの作品も多く親しんでいた。その彼がハイドン作曲の管楽器の為のディヴェルティメント「聖アンソニーのコラール」から第2楽章のテーマを取り、変奏曲を作曲したのである。曲は優れた対位法の技法を駆使して、主題を巧みな変化を持って扱った独創的でそして機敏な8つの変奏と最終の変奏にあたるフィナーレからなっている。その終曲にはバロック音楽のパッサカリアの形式が、きわめて自由に活用されている。

 

演奏:イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ズービン・メータ
 インド生まれの巨匠、メータが手兵イスラエルフィルを指揮して作り上げたブラームス交響曲全集の中に収録されてあった演奏。落ち着いたテンポでさすが巨匠と思わせる演奏である。メータの円熟した指揮とそれにイスラエルフィルがしっかりと答えた名演奏といえよう。
評価:★★★★
演奏:ベルギー放送フィルハーモニー交響楽団
指揮:アレクサンダー・ラハバリ
 ベルギー・ブリュッセルにあるオーケストラを何年も指揮してきたラハバリのブラームス。オーケストラに力強さはあるものの録音が悪い所為なのか、音のバランスが悪いようにも思える。しかし、テンポ取りも平均的で聞きやすい演奏だ。
評価:★★★

 

交響曲第1番ハ短調作品68
Symphony No.1 in C minor, Op.68

 1855年、ブラームスはシューマンが作曲した「マンフレット序曲」を聞いた。その影響を多大に受けたらしく、その後すぐにこの交響曲の構想を練り始め、作曲を開始し始めた。が、自分の最初の交響曲という事と「ベートーヴェンの第9交響曲」を意識しすぎたのか、その後に続くに足る意義を求めて21年間も彷徨った。構想から完成まで21年の年数をかけたこの偉大なる交響曲を名指揮者、ハンス・フォン・ビューローが「ベートーヴェンの第10交響曲」と称賛し、また第4楽章の主題が「第9」の「歓喜の歌」に通じるものがあると指摘され、この曲はベートーヴェンの交響曲の規範だと思われがちだが、実際はベートーヴェンの作品でも中期のもの、ことに調性を同じくする「運命」交響曲に主題労作の方法、曲の理念などで近いものがあると言える。

交響曲第2番ニ長調作品73
Symphony No.2 in D major, Op.73

 交響曲第1番の完成後、すぐに着手して僅か4ヶ月で完成をみた作品。前作が21年もかかっていた事に対して2番はたった4ヶ月なので、ブラームス自身の作曲技法が前作を通して完全なる物に変わったという証拠であろう。1番とは逆の交響曲となった2番。1番が重々しかったのに比べ、明るさに満ちた曲である。この作品にはチューバも起用され、金管楽器が目立っているポイントも大きい。後に続く第3番もその傾向である。

交響曲第3番ヘ長調作品90
Symphony No.3 in F major, Op.90

 4つの交響曲の中でも最も簡潔にまとめられた交響曲である。冒頭の主題が終楽章の最後に再現される事から、曲全体がソナタ形式を拡大した形となっているのがこの第3番の最大の特徴であると言える。各楽章も優しい主題で構成されており、第1番と第4番の間に立つ、明るい交響曲である。

交響曲第4番ホ短調作品98
Symphony No.4 in E minor, Op.98

 第1番の次に人気を誇るのがこの第4番である。ブラームスの最後の交響曲として今までの技法がふんだんに駆使された作品。ブラームスはこの作品を作るにあたって初心へと戻り、バロック音楽の手法を使っている。これはハイドンの主題による変奏曲でも見られる手法で、終楽章にパッサカリアを用いている。変奏曲形式の交響曲と言えよう。3楽章ではトライアングルが使われ新鮮さが増している。終楽章の30の変奏曲とコーダによるパッサカリアがブラームス最後の交響曲を飾るにふさわしいものとなっている。

 

演奏:北ドイツ放送交響楽団
指揮:ギュンター・ヴァント (全集)
 故ギュンター・ヴァントが北ドイツ放送響に就任後すぐに録音されたブラームス交響曲全集のCD。ヴァントが得意とするこのブラームスは辛口であり、重々しい名演となっている。第1番で聞かせる見事な弦楽器。2番での管楽器のハーモニー。第3番でも弦楽器は美しい。第4番はインテンポでかつ、実に歌わせていて気持ちが良い。90年代に録音された2回目の全集も捨てがたいが、私はこちらを選ぶ。
評価:★★★★1/2
演奏:サイトウ・キネン・オーケストラ
指揮:小澤征爾 (全集)
 全集の中で一際目立っているのが第1番だ。サイトウ・キネンの弦パートは実に上手い。日本人だけじゃなく国外からも名手が集まっているからであろう。この弦の上手さはNHK交響楽団を抜くだろう。あとは小澤のオーケストラのコントロールが見事であること。これのお陰でこの1番は見事といえるだろう。国内の団体が出しているアルバムの中ではこれがずば抜けて良いだろう。
評価:★★★1/2
演奏:イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ズービン・メータ (全集)
 イスラエルフィルとともに録音した全集。全体的にテンポは遅めで、第1番は特にゆったり。じっくり丹念に仕上げていくメータの素晴らしさが伺える。メータの指揮には申し分ないのだが、オケがもう少し頑張ってくれたらもっと良かったと思う。弦楽器を含め全体的に力不足かなと思った演奏である。
評価:★★★
演奏:クリーヴランド管弦楽団
指揮:クリストフ・フォン・ドホナーニ (第1番と大学祝典序曲)
 アメリカオケのブラームスっていったいどんなんだろうと思い、購入してみた。弦もさることながら金管が熱い!ドホナーニは当時音楽監督を務めていたクリーヴランド管を上手くコントロールしている。ブラ1は重いと言うよりはあっさりしている快演。このCDは1000円で買ったが、1000円では安すぎたかもしれぬ。固めのティンパニの音が好みだったので、この演奏はその点は高く評価したい。
評価:★★★★
演奏:シカゴ交響楽団
指揮:サー・ゲオルグ・ショルティ (第1番)
 同じくアメリカオケのブラ1。クリーヴランド管よりシカゴ響の方が金管は大爆発である。でもちょっとうるさいかなと思う点もしばしば。上手いんだけどここまで鳴らされては、ブラームスの時代に演奏したら評価されないでしょうな。弦は完璧、言うことなし。金管ちょっとやりすぎた。
評価:★★★★1/2
演奏:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
指揮:リッカルド・シャイー (第1番と大学祝典序曲)
 初めてブラ1を聞いたのがこの演奏だった。初めは全然好きになれなくて、ただただ流して聞いているだけという感じだった。でも当時所属していたオーケストラで演奏する事になり、いっぱい聞いたのを覚えている。演奏の方はというと、とにかく弦楽器の美しさが特徴だ。ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団)は名指揮者エドゥアルド・ヴァン・ベイヌムが鍛え上げ、後に就任したベルナルト・ハイティンクが世界トップレベルのオーケストラに鍛え上げた。共に二人の指揮による同楽団のブラームスは評価が高い。今回のリッカルド・シャイーの指揮によるブラ1もその伝統を崩さず、落ち着いたテンポできれいにまとまったブラームスとなった。2楽章のオーボエもヴァイオリンもとてもきれいで、4楽章のホルンにも泣かされる。そんな点からみても評価は殿堂入りとなった。この曲を始めて聞く方にも最適な演奏だと思う。
評価:★★★★★ 【殿堂入り!】
演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:クラウディオ・アッバード (第1番)
 1990年にカラヤンの後任としてベルリン・フィルに就任したアッバードのブラームス。カラヤンの演奏よりは軽い演奏である。ただ、上手いんだけど、それ以外に何の魅力もないと思った演奏でもあった。ベルリン・フィルはもう完璧な演奏する事しかないのかなって思わされた。
評価:★★★1/2
演奏:ベルギー放送フィルハーモニー管弦楽団
指揮:アレクサンダー・ラハバリ (第1番とハイドンの主題による変奏曲)
 このオケの特徴は「ハイドンヴァリエーション」で紹介したと思うが、このブラ1はバランスはいいと思う。冒頭のティンパニの音はやや大きめ。第4楽章以外の楽章のテンポはインテンポか割かし速めで、問題の4楽章は冒頭からのピッチカートはとてつもなく遅い。ホルンによる主題が現れた事から極端にテンポを上げる一面も見せている。ちょっと乱暴なブラ1かもしれないけど、たまにはこういう演奏もいいな。
評価:★★★
演奏:NBC交響楽団
指揮:アルトゥーロ・トスカニーニ (第1番)
 アメリカの放送局NBCがトスカニーニを演奏活動を復帰させようと世界中から名手ばかりを集めて結成したオーケストラ、NBC交響楽団によるブラームス。晩年までトスカニーニはこのオーケストラから数々の名演奏を残していく事になる。有名なのはレスピーギの交響詩「ローマ3部作」やベートーヴェンの交響曲全集など、数え切れない中にこのブラームスも入っていると言えよう。録音自体は古いが、トスカニーニらしいサウンド。NBC響の豊かな音作りと円熟したトスカニーニの指揮が冴えに冴えまくってる名演だと思う。ブラ1ももちろん聴き応え満点。
評価:★★★★
演奏:フィルハーモニア管弦楽団
指揮:オットー・クレンペラー (第1番)
 イギリスの名門オケ、フィルハーモニア管弦楽団(旧:ニュー・フィルハーモニア管弦楽団)を世界的レベルに押し上げた人こそ、このクレンペラーである。見た目は厳格な父親という感じがする人。古くからのクラシックファンはこの人のLPを必ず1枚は持っているだろう。家にも親が持っていた。(ベートーヴェンの交響曲全集)その彼が絶頂期に録音したブラームスは非常に味わい深い演奏となっている。クレンペラーといえば”遅めのテンポ!”というのが常識的だが、この演奏は割りとテンポが速めに感じられる。演奏は非常に申し分ない。
評価:★★★★1/2
演奏:ライプティッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
指揮:クルト・マズア (全集)
 ライプティッヒ・ゲヴァントハウスは名門オケである。そのオケへ更に磨きをかけたのが名指揮者クルト・マズアである。そのオケとマズアによる全集は、ちょっと遅めのテンポできれいに纏め上げられている。正統派すぎて面白みに欠けるところもある。だが上手い事には変わりないんで、正統派のブラームスを聴きたい人にはオススメしたい。
評価:★★★1/2
演奏:名古屋シンフォニア管弦楽団
指揮:江原功 (第1番&ハイドンの主題による変奏曲、大学祝典序曲)
 私自身聴きに行ったコンサートのCDである。名古屋を中心に働いている方々で構成されている名古屋屈指のアマチュアオーケストラ、名古屋シンフォニア管弦楽団。私は非常にこのオーケストラが好きだ。アマチュアとは思えない音の響きを感じるから。このときの演奏会はブラームス・ティクルス(全部ブラームスの曲)だった。その演奏会のメインがブラ1。この楽団も非常に思入れのあるというブラ1。指揮者の江原功さんがこの楽団に就任した直後に行った演奏会で取り上げられたのもこのブラ1。10年という境目の年に演奏したこのブラームスの第1番に特に力が入ったと言っている。確かに聴いてみれば、「これがアマチュアなの?!」って思うほどの演奏だと思う。そこらへんのアマチュアオーケストラには絶対負けない上手さを充分に持っているオケである。
評価:★★★★
演奏:西春フィルハーモニー・オーケストラ
指揮:竹本義明 (第1番)
 私が所属してるオーケストラのブラ1。そしてこの演奏は失敗だった。練習量があからさまに少ない。何故皆はもっと練習しなかったのだろうか。これだけの名作をあんな駄作に変えてしまったのはこのオケしかないと思う。弦楽器は美しいどころかバラバラで良く分からない。泣かせのオーボエもミスるし、ホルンも外すし、いいところはない。あるとしたら2楽章のヴァイオリン独奏だけだ。それ以外何の魅力もない。将来このオケがもう一度ブラ1をリベンジするんであれば、もっと練習を積んでほしい。適当に演奏しないでほしい。適当にやるくらいなら演奏しないほうがましである。
評価:★(ヴァイオリン独奏に)

 

大学祝典序曲作品80
Academic Festival Overture, Op.80

悲劇的序曲作品81
Tragic Overture, Op.81

 1880年にブラームスは二つの序曲を書いた。この大学祝典序曲と悲劇的序曲である。前者の大学祝典序曲はブレスラウ大学の学生たちに陽気な曲を作ってあげようとの一心で書いた曲である。曲はブラームスのオリジナルのテーマから始まり、中間部でヴァイオリンによる「国の親父」という曲の旋律が歌われる。第3部では狐狩りの歌と呼ばれる「新入生の歌」が奏でられる。(狐=ドイツで言う新入生の事)これから終わると喜びの歌によるクライマックスが結ばれる。交響曲にはない華やかさがこの大学祝典序曲にはある。それに変わって悲劇的序曲はタイトルのとおり暗い曲である。ブラームスは明るい曲を作るならばそれと対になるような序曲も書かなければならないと思い、この序曲を書いたそうである。今ではどちらも親しまれている名曲である。

 

演奏:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
指揮:リッカルド・シャイー (大学祝典序曲)
 先ほどのブラ1と同様、このオケとこの指揮者による大学祝典序曲は弦楽器がとても美しい。それだけで★が3つ付く。後の一つはバランスの良さである。しかし5つ付かなかった理由はというと、金管が控えめな点のところ。この曲はもっと賑やかであってほしいと思ったからである。これだけ上手いオケなのに、少し物足りなかった。
評価:★★★★
演奏:クリーヴランド管弦楽団
指揮:クリストフ・フォン・ドホナーニ (大学祝典序曲&悲劇的序曲)
 シャイー版に比べ、大学祝典序曲はこちらの方が良い。少しテンポも速めで金管楽器もバシッと鳴っているから。しかも歯切れがとても良い。その点を考慮してこの点数にした。逆に悲劇的序曲は、弦が素晴らしかった。これもとても良いまとめ方だった。
評価:★★★★1/2
演奏:名古屋シンフォニア管弦楽団
指揮:江原功 (大学祝典序曲)
 ブラ1で力強いものを聞かせてくれた名古屋シンフォニア管弦楽団の大学祝典序曲であるが、この曲もアマチュアとは思えない神々しさで、感動誘った。ライヴなのも余計に良い。
評価:★★★★