クラシック音楽界の大御所と呼ぶべき存在の、ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)について紹介する。彼は、交響曲の父「ヨーゼフ・ハイドン」の影響を受けながら独特の音楽を作曲し、世間を驚かせた。代表する9つの交響曲は今でも全て不動の人気を保っている。それであるから今日の日本人の中にはベートーヴェン好きは多いのである。
 交響曲以外でもピアノソナタや協奏曲は素晴らしい。どれも交響曲的の重厚さがある。コンサートの前半を飾る定番曲としても欠かせない。弦楽四重奏曲にだってそうだ。彼は弦楽器の使い方もプロ並みで、ヴァイオリンソナタや協奏曲は天下一品とされる。でもヴァイオリン協奏曲は1曲しかなく、「何だ、もっと作れよ」と思うだろうが。この1曲がこれまた良い。古典的なヴァイオリン協奏曲を代表する名曲であることには間違いない。1つしかないといえばオペラもそうである。彼の1つのオペラとして未だ人気のある「フィデリオ」は、全体的に暗い音楽だが、そこはそこで彼なりの素晴らしさがある。彼は声楽曲にも目覚めていた。あの有名な「第9交響曲」と同じ時期に作曲された「ミサ・ソレムニス」は、第9に匹敵するほど素晴らしい。

<ベートーヴェンの交響曲について>(あくまで自分の解釈に基づいている)

 では彼の音楽について語っていこう。まずは9つの交響曲から、「第3番英雄(エロイカ)」からだ。この曲は、初めフランスの英雄「ナポレオン」に捧げるつもりで書いていたが、ナポレオンがロシアの戦いで敗戦したため、絶望に陥ったベートーヴェンがタイトルを英雄に変えた。(最初はナポレオンだった) しかもこの曲はナポレオンには捧げられていない。ベートーヴェンは英雄と変え曲調も今までの交響曲とは違って長時間の曲になった。 (この第3番が書かれた頃フランスでは第2のベートーヴェンと呼ばれる作曲家が登場していたのだった。彼の名前は、ニコラウス・メユール。)
 第1楽章は、見事なソナタ。少し悲しみの部分も見られるが、勇敢な英雄の姿をひしひしとカンジさせてくる。第2楽章も悲しい。第3楽章のスケルツォはその名の通り、遊び心に耽っている。第4楽章冒頭の激しさから一転する減のピッチカートは、何か恐ろしさをカンジさせる。だがこの楽章も見事。
 続いてあの有名な「第5番(運命)」。(運命と称するのは日本だけ) 第1楽章は、ベートーヴェンが運命の戸を叩くという考えのもとで有名なフレーズは誕生した。このフレーズは楽章が終わるまで終始いろいろな形に変え展開していく。そして第2楽章の旋律の奇麗なことといったら。どこか平和的なイメージをも持ってしまう。第3楽章と第4楽章は切れることなく繋がっている。まずは第3楽章だが。イントロの低弦の不気味な入りから、ホルンのカッコイイファンファーレ。それを繰り返すオーケストラ。その後、低弦から高弦へのフレーズの移し方。どれも上手いとしか言えない技法。そして静寂に包まれた第3楽章は華麗なファンファーレで幕を開ける第4楽章へと移っていく。ここで始めてベートーヴェンは「トロンボーン」を使う。トロンボーンはこの曲で初めてクラシック音楽界へ音色を響かせたのである。時々、第3楽章のフレーズを登場させながらこの曲は終わっていく。
 最後は「ミサ・ソレムニス」と同時期に書かれた「第9番合唱付き」である。この曲の長さといったら凄まじい。特に第4楽章はね・・・。
第1楽章は巨大なソナタ形式である。静かに始まっていき、恐ろしい第1主題が顔を出す。でもそれがカッコイイ。驚きの楽章である。そして第2楽章は珍しくスケルツォ。3拍子でトントンと進むこの楽章は弦楽器奏者には辛い。(3拍子っていうのはとても弾きにくいんです。)何度か主題が出された後、中間部に差し掛かる。ここは見事な木管アンサンブルで構成されている。途中ホルンとオーボエの独奏が入る部分がある。ここで演奏者は緊張に押されて失敗することもしばしば。それとこの楽章の目玉楽器はもう一つ。それはティンパニである。高音と低音を交互に叩くのだが、かなり難しい。(実際自分もやりました。)でもキメるとカッコイイ。曲はまた再現部に戻って終わる。
第3楽章は皆も知っていることでしょう。よく中学や高校の卒業式に流れる定番曲。卒業式の時に聞くと悲しくなるのだが、普通に聞いている分では、その美しい旋律に感動してしまう。中盤に登場するホルンソロには失神してしまいそう。お見事って感じ。
さて問題の第4楽章であるが、この楽章は何と、今まで出てきた楽章の主題を冒頭で否定するのだ。否定する楽器は低弦。実に面白い。
そしてその否定部分が終わると今度は待ちに待ったあの「歓喜の歌」の旋律が演奏される。それも低弦によって。
オーケストラだけの主題が終わると、また冒頭のなだれ込みがあってようやくバリトンソロが登場する。「おお、友よこの調べではない!」という
投げかけからシラーが書いた詩に移っていく。それがテノール、アルト、ソプラノとバトンリレーのように受け渡され、大合唱となる。
それが終わると一旦曲は静まり、トルコ行進曲に移る。大太鼓とファゴット、後に登場するシンバル、トライアングルの伴奏にのって、テノールが男声合唱群を引き連れて力強く進んでいく。弦の掛け合いがあった後、「歓喜の歌」が大合唱で演奏される。その後も合唱旋律は様々な形に変化し、プレストへなだれ込んでいく。プレストはかなり速いテンポで進められ、大合唱とオーケストラが一丸となって長かった歓喜の歌は幕を閉じるのである。

<幻の交響曲第10番ハ短調>

 一昔前に山本直純さんがベートーヴェンの交響曲第10番ハ短調を取り上げた。しかし、数多くのベートーヴェン・ファンはこの曲をベートーヴェンの曲とは認めなかった。理由としては、ベートーヴェンの曲に聞こえない。第9交響曲の後に作られたくせにテクニックなども前作に比べ、落ちている。など、世界中のベートーヴェン研究家もこの作品がベートーヴェンの曲だとは思いたくないようだ。現在は10番のスケッチを基に第1楽章の完全版が補筆され、音源化もされている。私も最近初めて耳にした。
確かに第9交響曲にくらべると深みはないと思う。が、これが本当にベートーヴェンの残した最後の交響曲のスケッチであるならば、貴重なものであり、ベートーヴェン・ファンならずとも称えるべきではないのか。


オススメ演奏

交響曲全集
演奏:チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団
指揮:デイヴィッド・ジンマン
 古楽器を用いたオーケストラに、ベーレンライター版という稿を使用した当時話題を呼んだ名盤がこれ。この話題以外に曲のテンポが凄まじく速いのも特徴だった。演奏技術は素晴らしいとしか言えない。第9は恐ろしく速い。全9曲の交響曲を聞いてみて、オリジナル版とベーレンライター版の違いなんて聞き取れる人なんて少ないと思う。(自分のその一人ですが。)古楽器を用いる事で、ベートーヴェンが生きた時代のオーケストラを聴くことが出来る。この演奏を聞くことによって、自分がベートーヴェンと同じ時代に生きているような感覚さえ生まれる。普通のオーケストラでは決して味わえない感動がここにある。
評価:★★★★★

 

交響曲全集
演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:サー・サイモン・ラトル
 ベルリン・フィルの音楽監督となったラトルだが、その手兵のオケを振らず、小澤が音楽監督をやっているウィーン・フィルで全集の録音を行った。理由は定かではないが、私はこれでよかったと思う。ベルリン・フィルよりウィーン・フィルのベートーヴェンの方が優れているからだ。過去の演奏達を聞いてそう感じる。ベルリン・フィルよりウィーン・フィルの方が名盤が多かった。そして今回のラトル版だが、割かしテンポは遅め、じっくり丁寧に仕上げている演奏だ。もうオーケストラのテクニックは見事としか言えない。脱帽である。古楽器の演奏を聞いたあとにフル・オーケストラのベートーヴェンを聴くのも面白いと思う。
評価:★★★★

 

交響曲第5番&第7番
演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:カルロス・クライバー
 この演奏を聞かずしてこの二つの交響曲は語れない。とにかく驚愕の演奏だ。ラトル版と比べて聞いてみても、同じオーケストラとは思えない。この違いは何だ?やはりクライバーの力なのか!と感じてしまうとてつもなくすごい演奏です。第5番第1楽章のあの弦楽器は何でしょう。すごすぎです。ホルンもバリバリ鳴っている。ウィーン・フィルも指揮者が変わるとここまで変わるのかと驚きである。「ベートーヴェンからクラシック音楽に入ってみた〜い!!」ってお方は、まずこの演奏を聞かれることをオススメしよう。他の演奏は聞いてはダメ。でもこの演奏聞いてから他の演奏を聞けないかもねw
評価:★★★★★

<最近聞いたコンサートから>

 2004年の4月、NHK交響楽団は名指揮者「Mr.S」こと、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキー氏をお迎えしてベートーヴェン・チクルスを行った。曲は以下のとおりである。

<A Programme>
2004年4月9日 NHKホール
1.歌劇「フィデリオ」序曲
2.ピアノ協奏曲第4番ト長調作品58
3.交響曲第3番変ホ長調作品55「英雄」
ピアノ:ギャリック・オールソン

<B Programme>
2004年4月15日 NHKホール
1.序曲「コリオラン」
2.交響曲第4番変ロ長調作品60
3.交響曲第7番イ長調作品92

<C Programme>
2004年4月21日 サントリー・ホール
1.序曲「エグモント」作品84
2.ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61
3.交響曲第5番ハ短調作品67
ヴァイオリン:パトリツィア・コパチンスカヤ

 この3回のプログラムは生放送でNHK-FMで放送された。私はそれを聞いたのだ。
最近のNHK交響楽団は大変注目している。
音楽監督がアシュケナージになった事も大きいといえよう。
今回巨匠を迎えてのベートーヴェン・チクルス。本当に素晴らしかった。
生で聞きたかった。どの曲も全て感動してしまった。英雄交響曲や第5番には涙したなぁ。

これからもコンサート等で聞いたベートーヴェンの作品を紹介していきます。