「STORMWORKS CHAPTER 3」は、2000年にリリースされたメリロの5枚目のアルバムです。
このアルバムは、メリロの作品の中で一番売れたものといわれています。収録曲も今日、
日本で演奏されているメリロ作品がたくさん入っています。このベストセラーアルバムを
演奏しているのは、オランダを代表する楽団、オランダ海軍軍楽隊です。

GODSPEED! Op.855 in 1998
 「幸運を!」というタイトルのこの作品は、急-徐-急でテンポが構成されています。前半の「急」は変拍子の中でフルート等木管楽器群による導入、続いてトランペットによるファンファーレにも似た導入から、高中低音一体となったエネルギッシュなテーマに続いていきます。次に「徐」に一転し、ホルンによるスケール感が演出されます。そしてイングリッシュ・ホルンとハープの美しいソロが展開されます。そしてその間、超低音の単音が地響きのように底辺を固め、安定感のある絶妙なバランスを生み出しています。そして後半の「急」がスネアとクラベスの伴奏で突如として始まり、前半のテーマが繰り返されます。そして息もつかぬ間に、ハイハットシンバルとティンパニの伴奏の上にホルンが乗っかります。その背後では木管楽器が「WAIT of the WORLD」第1楽章の旋律を奏でていきます。しかし「groove」という指示のもと、更なるパワーが注ぎ込まれ、高中低音、木管金管打楽器の力の衰えることなくクライマックスを迎えます。今日の日本でメリロ作品が有名なったのは、このゴッドスピード!を千葉県のアマチュア吹奏楽団体、「土気シビック・オーケストラ」が2000年の吹奏楽コンクールで演奏したからであると言われています。それからというもの、この曲はメリロ作品の中で一番演奏される曲となりました。約6分の曲です。

 

IN THE BEGINNING... Op.626 in 1992
 この作品は別名「ジュラシック・パークを散歩して」とも呼ばれています。3楽章編成で、構成されています。ジュラシック・パーク(恐竜の公園)をイメージして作った曲です。映画のジュラシック・パークと関わりは無いだろうと思います。映画よりもマイケル・クライトンの原作をメリロが読んだのかもしれません。さて曲のほうですが、第1楽章は、木管楽器から幕をあけます。突如、金管楽器が登場し、恐竜が登場します。恐竜の登場は、ラテン・パーカッションのリズムに低音が乗り、奏でていきます。この流れのまま曲は最後まで突っ走ります。第2楽章は恐竜の去った一時を表現する為、木管楽器が物静かに奏でていきます。第3楽章は第1楽章のフレーズが聞かれます。恐竜が戻ってきた証拠でしょう。恐竜の暴れている姿が浮かぶような楽章です。約13分曲です。

 

DAVID Op.800 in 1994
 H・エミッサリーの書いた「ダビデ(または、デイヴィッド)」というお話を基にメリロが書き下ろした作品です。これもまた3楽章編成で構成されています。第1楽章は戦いの場面を描いたという楽章です。それほど激しくはないのですが、戦いのフレーズはきっちりと表現されています。第2楽章は戦いの前を描いたという楽章。ここでソプラノ歌手が登場します。歌い手は、ヘレナ・ウィックルンドです。この歌声に乗せて穏やかなフレーズが演奏されます。第3楽章は戦いが終わってからの場面が表現されています。美しいメロディが聞こえ、それがじっくりと聞かせられた後、クライマックスへと進みます。約15分の曲です。

 

THE CHOSEN Op.861 in 1999
 メリロが作り出す一連の「American Kights」シリーズの曲として作曲されました。この作品は別名、「TIME toTAKE BACK the KNIGHTS」とも呼ばれます。曲は、冒頭のサキソフォン・ソロから始まり、テンポが速くなったと思ったらメリロ独特のジャズ調が始まります。伴奏にはピアノやエレキベースなども使われています。メリロの作品にはよくエレキベースが使われます。その部分が終わると、木管楽器によるアンサンブルが繰り広げられ、「American Knights」の旋律が優雅に歌われます。その後再びジャズ調の部分が再現され、テーマが壮大に歌われた後、テンポ上げてクライマックスへと向かいます。今日、ゴッドスピード!に次ぐ人気を誇っているのがこの作品でしょう。約8分20秒の曲です。

 

THE SPEECH OF ANGELS Op.858 in 1998
 タイトル「天使の囁き」の通り、冒頭は神秘的な表現から始まります。鍵盤楽器とピアノ、ハープによって伴奏が構成され、木管楽器が静かに旋律を奏でていきます。これらの導入がなされた後、テンポは上がり、シンセサイザーのコーラスと金管楽器も加わってきます。この部分が終わるとまた静かになり、冒頭の伴奏の上にホルンの勇ましい旋律が入り、曲は幕を閉じます。約8分の曲です。

 

WAIT of the WORLD Op.847 in 1997

この作品を出版したときメリロはこう語っています。

「私は思いもよらないほどの広がりを見せる空間の中の塵の一つでしかない。私の出来ることはとても小さいことであり、人に訴えるには力不足である。私はとりわけ優れた能力のある人間ではないし、この作品だって他の多くのすばらしい作曲家が幾度と無く取り上げた「愛」という叫びでしかない。私は待っていた。夜空に耳を澄まし、 朝は内なる声を聴きながら・・・。私が今まで書いた847曲の中でもこれほどの時間を費やした作品はない・・・これほど悩みぬきながら、待ち望みながら生んだ作品も無い。そう、私はまっていた。星を探しながら、語られるべきものを語ってくれる声を望みながら。そして、私が待ち望んでいたものは私の中で子供になった。愛にもなった。この私の気持ち、あなたならきっと分かってくれる。きっと、きっと、きっと・・・。」

 作品は三曲構成でどれもが単独で「STORM」にまつわる作品として成り立っています。第1楽章、「そして、今、子供達は導く」では待ち望んでいたもの、つまり子供によって闘争の時代から新しい時代へと導かれます。第2楽章、「過去を待ちながら」では「すでに起こってしまったこと(過去)」への闘争を扱っています。過去というのは全て己の中のもので、過去を美化するものも、誇張するものも、最後は自分に打ち勝たなくてはなりません。第3楽章、「未来への記憶」では闘争の先に見えるものを表現していて、具体的な言葉としてメリロは「表題「WAIT of the WORLD」に隠している。つまり闘争の先には世界の重さ(weight of the world)にたどり着くのだ。」というのです。
 このアルバムの中で最も壮大な作品であるこの曲は、これを演奏しているオランダ海軍軍楽隊と指揮者であるモーリス・ハメルスに捧げられました。全楽章通して約25分の大曲です。