交響曲第6番イ短調(「悲劇的」) Symphony No.6, in a Minor
着手:1903年 完成:1904年 初演:1906年、マーラー自身の指揮による |
第5番を書き上げた翌年に着手され、そして、この夏の間に2つの楽章を書きあげている。翌年夏もこのマイエルニッヒに来て、この第6番を完成させた。大曲でありながら、マーラーとしてはかなり短期間で完成したというべきだろう。マーラーは、この曲をアルマにピアノで弾いてきかせたが、この夫人は、この曲に感動し、とくに終楽章のハンマーが3回ふり下ろされるというところで深い感銘を受けたという。 相当大きな編成の管弦楽を必要とし、とくに管楽器と打楽器を重視する。その上、古典派の原則を拡大した形式構成を見せ、その各楽章にかなりの自由さを盛りこんでいるが、それでいて全体はきわめて緊密にまとめあげられている。和声法もこれまでなく大胆である。こうしたことで、これまで以上に一段と幅のある強い表現を狙ったのである。この為にこの曲は、当時の若いオ−ストリアの作曲家達へ、マーラーのこれまでの交響曲以上に強い影響を与えた。 |
○今まで聞いた演奏の数々
演奏:フランクフルト放送交響楽団 指揮:エリアフ・インバル 評価:★★★1/2 |
第1楽章 |
冒頭から低弦の重々しい伴奏がゆっくりと始まる。テンポは幾分遅め。録音は良いと書いてあるが、
それほど良いとは思えない。インバルとこのコンビはショスタコの第5番やブル4などを聞いていて買ってみようと思った。 しかしマーラーはどうだろうか。確かに良い。まだこの6番しか買っていないので何ともいえないが、もうちょっと金管楽器に キレが欲しかったところ。弦楽器は流石と言わんばかりに良い。第1楽章は特に決め細やかで素晴らしい。ティンパニがもう少し堅めだったら尚更良かったが・・・。<アルマの主題>は遅めのテンポで心地よく聞ける。クライマックスまでこのテンポで良くのはちと辛いかな・・・。 |
第2楽章 |
アンダンテではなくスケルツォである。これは非常に遅いスケルツォだ。しかもティンパニが×。あと、ホルンもちょっとダメ。けれども弦楽器は良い。もうすこしクリアなサウンドが欲しい。 |
第3楽章 |
これは素晴らしい。泣ける!弦楽器の聞かせ方がもう最高である。フランクフルト放送響の弦楽器はこうでなくっちゃ。ヘルデングロッケン登場シーンのホルンも鳴りに鳴りまくっている。落ち着いたテンポの中でインバルは見事な解釈をしている。 |
第4楽章 |
今までインバルを叩いてきたが、この長い30分の楽章は非常に良い!第1楽章の切れの無かった金管が嘘のようである。ティンパニの堅さも良いではないか!もう長い序奏がたまらなく良い。そしてハンマー部分に到達したときの快感は表現しようの無いくらい。ハンマー部分ももちろん良いのだが、クライマックスに近づく盛り上がり方は鳥肌物である。 インバル版、この4楽章のために買っても損はない。 |
録音:1986年 フランクフルト、アルテオーパー |
演奏:NHK交響楽団 指揮:ユッカ・ペッカ・サラステ 評価:★★★★1/2 |
第1楽章 |
初めて悲劇的を聞いた記念すべき演奏。ラジオでの生放送だった。サラステは遅めのテンポを取り、じっくりと聞かせている。N響もフルメンバーでサラステの指揮についていってる。弦もさることながら、金管も良く鳴っている。特にホルン。これが素晴らしい。さすが日本一上手いオケ、世界を代表するオケの中に入ってる楽団だけ、ある。北欧の指揮者の解釈はあっさり目かと思いきや、結構どっしり来てる。第1楽章で見事にこの曲へのめりこませてもらった、いい演奏である。 |
第2楽章 |
スケルツォ。まずティンパニの堅さが良い。あと、ホルン。2楽章だったらインバル盤よりも奥が深くて良い。弦の刻みも力強くて良い。 |
第3楽章 |
テンポはそれほど速くない。落ち着いた演奏だ。オーボエのソロもいい音を出している。やっぱりここでもホルンが上手い。最近のN響はおかしいくらい上手い。そこが気に入ってるポイント。スタジオ録音では味わえない音の広がりがここにはある。 |
第4楽章 |
冒頭の力強さは少し欠けるが、まぁ、そこは良しとしよう。やっぱりこの序曲並に長い序奏は素晴らしい。この緊張感がたまらない。ハンマーの部分より何故か良い。N響のハンマーはライヴとは思えない強打音。心の奥までズシっと来る。ハンマーは2度しかないがこの演奏は2回で十分だろう。N響の演奏はハンマーだけではないのだし。インバル版よりもホルンはよく鳴っている。とにかくN響の金管奏者が頑張りまくっている、そんな演奏と感じた。もっと早くにこの曲に出会っていれば、この日ラジオではなく、会場に行って聞いていただろう。 |
録音:2004年5月13日 NHKホール |
演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 指揮:クラウディオ・アバド 評価:★★★★ |
第1楽章 |
ベルリン・フィルの2004年の定演から。今年上半期シーズンの最後を指揮したのは、前音楽監督のアバド。そのアバドが得意のマーラーを指揮した。それも第6番とは。ラジオで放送されると聞いて喜び、録音した。演奏の方はというと、世界を代表するオケだけあり、上手い。が、上手いだけで深みという物はさほど無い。「俺らは何やっても上手いんだぞー!」って言いながら演奏してるようだ。アバドの演奏は、カラヤンの音が薄くなったとしか思えず、それだったらまだカラヤンの方が良いと思ってしまう。第1楽章もカラヤンの演奏よりは薄い。特に弦楽器。これの存在があまり目立ってなくてつまらない。もっともっとギシギシ言ってる弦の音のほうがベルリン・フィルらしい。しかしライヴでこの程度の演奏が出来れば上出来だろう。これがスタジオ録音だったらがっかりだったけど。どうも自分、アバドは好きになれず、アバドがロンドン響を振っていた時代の方がまだ好きだった。ベルリン・フィルをカラヤンの亡き後に別の人が振っても、カラヤン・サウンドとそう大差なく思ってしまうので、たいして魅力が感じられないのである。僕がベルリン・フィルの音源を好んで買わないのはそういう意図もある。ベルリン・フィルの音源はこれからもあまり買わないだろう。 |
第2楽章 |
アバドはここにスケルツォではなく、アンダンテを持ってきた。ベルリン・フィルにしては何ともひ弱な弦の出だし。これは良くない。これではこのオケの実力が出し切れておらず、不完全燃焼である。別の解釈として取ればいいのだろうが、これはちょいといただけない。 |
第3楽章 |
ここにスケルツォ。しかもテンポが速い。アンダンテでは影の薄かった弦楽器の存在がここでは大いに目立つ。素晴らしい。アバドはテンポをコロコロ変えるらしい。この楽章は聴きやすくてダイナミックで大変に良い。 |
第4楽章 |
素晴らしい冒頭に酔いしれた後、ハンマーへ。今まで聞いたハンマーより違った音だ。「ズシーン」(N響)、「ゴンッ」(フランクフルト)、に比べ「バキッ」という音である。板も一緒に割れてしまったような音である。それか安っぽい板を叩いているような感じ。毎回ハンマーの音もそれぞれ違って、それを聞くのは楽しみだから良い研究にはなる。この楽章だけは他と比べてテンポが遅い。今まで薄かったベルリン・フィルらしくない音も、この楽章ではいつものベルリン・フィルに戻っている。最終楽章だからみんな力みすぎてはいないか?そんな印象を受けた。クライマックスはどっしりとした終わり方で、観客のブラヴォーも凄い事になっている。現地で聞いたらもっと違う印象を受けるんだろうな。 |
録音:2004年6月3日 ベルリン、フィルハーモニー |
演奏:ロンドン交響楽団 指揮:ジェイムズ・レヴァイン 評価:★★★★★ |
総評 |
レヴァインが第6番の録音に選んだのは巨人と同じくロンドン響。しかしそれは外れではなく、正解であったかもしれない。シカゴ響と入れれば圧倒的な人気を誇っていたショルティと完全に比べられてしまう。レヴァインはロンドン響にてシカゴ響に負けない音作りに成功し、カッコいい第6番を完成させた。 |
第1楽章 |
低弦の切れが非常に良い。ズンズンズンズンと割りとテンポが速めのところからスタートする。ここでも巨人同様、ブラスは凄い!特にトロンボーン!なんじゃこりゃ状態。ショルティの第6番が機械的だったのに対し、レヴァイン版はちゃんと呼吸してる。何よりもTimpが生き生きとしている。こういう音は大好きだ!アルマのテーマも大変感情深く、非常に丁寧に仕上げられていて好感を持つ。余談であるが繰り返し後のS.DとTimpの爆音リズムが凄く良いと思う・・。 |
第2楽章 |
スケルツォは大変素晴らしい!Timp.の堅さもさることながら、テンポがちょうど良い。第1楽章と比べると幾分迫力は削られているが、この方が良い。相変わらず弦楽器は大変力強い。 |
第3楽章 |
うまい!大変感情豊かである。これが77年の録音だなんて誰が思うのか・・・。非常にクリアなサウンドをここでは聴くことが出来る。やっぱホルンはめちゃくちゃ良い。ホルン・ソロのところ、鳥肌が立ってしまう。 |
第4楽章 |
終楽章も割かしテンポは速め。第1楽章よりもド派手なこの楽章はこれでもか!これでもか!と大管弦楽の大洪水!ハンマーは2回。ハンマーの打撃音は非常にクリア。レヴァインの演奏はハンマーよりもブラス・セクション!これの影響力の方が上なのでハンマーの存在がかすんでしまう(しかし2回目のハンマー音はすごい!C.Cymと銅鑼と見事に重なり合って大爆音!)。第6番だったらショルティ&シカゴ響の演奏を抜いたと思う!ロンドン響ですでにこのサウンドなのだから、もしレヴァインがシカゴ響で入れていたらどんなに凄いことになったか、と惜しまれるのだが、ここは全く聞いたことのなかったロンドン響が味わえたのでこれはこれでよかった。僕の中で一気に名盤と化した演奏になった。「とにかく最高!」である。 |
録音:1977年 |