交響曲第5番嬰ハ短調 Symphony No.5, in C sharp Minor


交響曲第5番初演時のポスター

着手:1901年 完成:1902年 初演:1904年、マーラー自身の指揮による
 巨人に次ぐ人気を誇る交響曲。国内でもよく演奏される。2番〜4番まで声楽を含めた交響曲だったのに際し、5番〜7番までは声楽を外した原点の音楽へとなっている。第5番は交響曲にしては長大な5楽章編成で成り立っているが、実はこれを3部構成に分けることが出来、第1、2楽章を「第1部」、第3楽章を「第2部」、そして第4、5楽章を「第3部」としている。第4楽章は映画「ヴェニスに死す」で使用されて一躍有名となった。

 

○今まで聞いた演奏の数々

演奏:ボストン交響楽団 指揮:小澤征爾 評価:★★★1/2
第1楽章
巨人を聞いたときの小澤の演奏とどこか雰囲気が違う。こっちの方が勢いが無い。ライヴレコーディングなのにライヴ感があまり伝わってこない。ボストン響の金管はいつものようにバリバリなっているのだが、それ以外の魅力はあまり感じられず。やはり巨人で圧倒されてしまった所為なのか。逆に金管楽器が鳴り響く、葬送行進曲がやたら明るすぎてしまっているのも少し減点対象である。冒頭のトランペットソロは美しいのだが。もう少し落ち着いた葬送行進曲が聞きたかった。
第2楽章
今度はボストン響の金管群がちょっと抑え気味になってしまっている。しかし第1楽章よりは良い雰囲気を出している。小澤のタクトは落ち着きを取り戻しているようだ。低弦が聞かせる調べなどは心地よい。
第3楽章
ホルンの華麗なフレーズから入る第2部。小澤はいくらかこの楽章はテンポを落としている。ホルンもなぜかキレが無い。スタジオ録音の巨人より勇ましさが無い。安定した感じはとても良いのであるが、それ以外はなんも魅力が無いのだ。中間のホルン・ソロは割りと良く、心に響く。コーダの盛り上がりは良かった。因みに僕はコーダ付近の「木星」の伴奏(弦の伴奏)に似ている部分がとても好きだ。
第4楽章
小澤はこの曲だけ別の作品みたいな感覚で演奏している。そう聞こえてしまう。美しい解釈の仕方だ。弦楽器が綺麗であることと、聴きやすい遅めのテンポ。見事な表現である。
第5楽章
やはりちょいテンポが遅めであるが、他の楽章と比べると第5楽章の演奏は聞きやすかった。何よりも木管のフレーズが良い。このフレーズはまず初めにホルンによって提示され、その後木管によって繰り返される。途中、第4楽章のフレーズがテンポを変えて何度も登場する。マーラーも小澤もこういうところの作りが上手い。クライマックスは少しテンポを上げる。ちょっと今まで黙っていた金管群も爆発する。そして最後はブラヴォーが待っていた。
録音:1990年 ボストン、シンフォニー・ホール(ライヴ)

 

演奏:フィルハーモニア管弦楽団 指揮:ジュセッペ・シノーポリ 評価:★★★★
第1楽章
前々からなかなか評判が良かった演奏である。生前の絶頂期に録音されたシノーポリの熱いマーラーである。フィルハーモニア管は昔のニュー・フィルハーモニア時代から数多くマーラーを録音してきたので、得意な方に入るだろう。シノーポリのタクトはキレのある演奏を創り上げている。葬送行進曲はとても落ち着いていて、トランペットもそれほど明るくなく、そして暗みを帯びた良い仕上がりとなっている。
第2楽章
冒頭から弦楽器が力強くて大変頼もしい。シノーポリのマーラー美学はこの第2楽章以降から徐々に見え始めてくる。シノーポリのオーケストラコントロールは見事でずっと前に聞いたショルティ&シカゴ響の演奏さえ叶わない。締まった演奏である。
第3楽章
第3楽章をグイグイと引っ張っていくシノーポリのタクトに完敗である。何よりも音の響きが良い。冒頭のホルンのフレーズを滑らかに表現するのも他と違ってて良い。ショルティみたいに機械的ではなく自然な音にしているところが良いのである。少しテンポは遅めではあるが・・・。コーダはいきなりテンポを上げてびっくりする。
第4楽章
第3楽章がハイスピードで終わったので、第4楽章はかなりゆっくりで落ち着く。ちょっと弦楽器が薄いが、全体的にバランスが取れていて○。

第5楽章

試聴

このフィナーレもテンポは遅め。金管楽器の響きがどこかホールで聞いているかのような残響が目立つ。全面的に弦楽器が出てきている。コーダはなかなか迫力があってよい。少しテンポも上がるし。シノーポリのマーラーは正統派の解釈である。
録音:1985年

 

演奏:リュブリャナ放送交響楽団 指揮:アントン・ナヌット 評価:★★★
第1楽章
巨人でも取り上げた3流オケの5番は、巨人より少し劣る。が、バランスは良いと思う。オーケストラの技術力をどうこういっても仕方の無いことだが、このオケには何か他の魅力があるからついつい聞いてしまう。このオケのことを良く知る音楽評論家は「音の響きはオーストリア的である。ここよりはるかに上手いオケに無い音をここは持っている。このオーケストラが日の目を見ないのは大変に残念なことである。」と語る。確かにそうかもしれない。一部のマニアの中にはこのオーケストラを愛する人もいる。技術とは違ったものがここのオケにあるような気がするからだろう。この重々しい葬送行進曲も他では生み出すことの出来ない音色なのかもしれない。
第2楽章
あいかわらず弦楽器は薄い。ナヌットはそれをカバーするかのようにテンポを遅め、弦以外を全面に出すことにしたようだ。ホルンの音がこもっているのが少々気になるが・・・。
第3楽章
冒頭のホルンはやはりこもった音である。録音が悪い所為なのかもしれないが、ちょっとこもりすぎではないか。しかし嫌いな演奏ではない。何か上手くないオケの方が親しみを感じてしまう。ホルンソロは何とか最低ラインのところに入るし、テンポもそれほど速くないので、団員もナヌットのタクトに食らいついてきているみたいだ。コーダはなかなかに盛り上がる。
第4楽章
ちょっと弦に物足りなさがあるため、この楽章は良い評価は出来ない・・。でももう少しってところなので次回録音されたときに期待できそう。

第5楽章

試聴

小澤より2分ほど速い5楽章。確かにちょっと速い。しかし速くても落ち着いている。それほど力んでもいない。低弦のパッセージのところがもう少し力強ければいいなぁと思ったが、これもまた良しとしよう。実はこの演奏でこの曲に初めて出会ったのである。この音源を聞いたのは中学2年のとき。ちょうどテスト期間のときに本屋さんで売っていた「クラシック・コレクション」というのを買ってきて聴いたのだ。(当時はこのクラシック・コレクションを集めていた。が、結局多すぎで挫折した。でも90刊ぐらいまでは集めた。全部で150刊もあると聞いたとき、一気に面倒くさくなった。)で、このナヌットのマーラー第5番を勉強のお供にかけていた。最初聞いたときは「暗すぎ」って思ったもんだが、だんだん聴いていると慣れてきてなんだか気に入ってきた。それからディスカウント・ショップでショルティの5番を買って聞いた。上手さは遥かにショルティの方が上だったが、ナヌットの演奏はどこか懐かしい感じにさせてくれる演奏であり、僕の初マーラーCDだったので上手くなくてもこちらを何度も聞いた。僕の兄もかなりのクラシックマニアだが、この当時はまだそれほどマーラーを聞いていなかったと思う。(現在兄は僕よりマーラーを知り尽くし、メジャーな作曲家の交響曲はほとんど制覇している。古典派・ロマン派の作曲家を好んで聞いている人だ。その代わり現代音楽・マイナー系等には全く無知な人である。)それで、兄より先にマーラーを聞いていたことが嬉しかったりもした。兄に薦めたら、まだ聞かないとか言ってたけど、結局今では・・・。そんな感じでこのディスクは僕にとって記念すべきものであり、有名でも上手くもないけれど、僕の中では名盤の一つなのである。ナヌットとこのオケのコンビの音源を他にいくつか聴いた。古典から現代まで幅広く録音している。どれもいい演奏だと思う。特にベートーヴェン、ベルリオーズなどはもっと日の目を見ても良いと思う。ちょっと長くなってしまったが、このコンビの演奏に興味をもたれた方がいましたら、ディスカウントショップまたは古本屋などに当たってみてください。100円〜500円の間でこれらのCDが見つかることでしょう。100円だったら絶対に買うべきです。上手い演奏に飽きた人もどうぞw
録音:1987年