交響曲第1番ニ長調「巨人」 Symphony No.1, in D


着手:1884年 完成:1888年 初演:1889年、マーラー自身の指揮による
 マーラーの交響曲の中で人気のある作品のひとつ。多くの作曲家と異なり、初期の作品、まして交響曲としては、非常に完成度が高い作品である。
初演時には「二つの部分からなる交響詩」と題され、現在より1楽章多い5楽章だった。初めは交響曲として書かれていた訳ではなく、交響詩として書かれた。1896年、ベルリンでの演奏会を最後に第2楽章が削られ、「巨人」というタイトルも消え去った。しかし現在も「巨人」と題されるのは、その名残にすぎず、作曲者自身はタイトルを削除していることになる。
 削除された第2楽章は「花の章」と言われ、再現された演奏もあるが、初稿(花の章をふくんだ全曲版)は発見されていないのである。

 

○今まで聞いた演奏の数々

演奏:ボストン交響楽団 指揮:小澤征爾 評価:★★★★★
第1楽章
僕は小澤征爾のファンである。ファンといっても小澤がボストン響を振っている時だけである。小澤とボストン響の相性は抜群だと思う。オケも凄いんだろうけど、なんと言っても小澤が凄い。どの曲も全て暗譜するという暗譜主義者なのだ。完全に暗譜してみせる彼のオーケストラコントロールは素晴らしいとしか言いようが無い。このマーラーにしてもこの前出たばかりのブル7にしろ、両曲とも長大な曲なのに彼は完全に暗譜してみせる。スタジオ録音でも暗譜してからじゃないとダメなのである。このディスクを聴く限りでは、暗譜して振っているなんて誰も思わないだろう。小澤のことを良く知っている人以外は。楽譜の細部まで読み取っている小澤の解釈はもちろんこのマーラーにも良く現れている。第1楽章の神秘的な始まりを丹念に仕上げていくその姿はもはや天晴れである。地の底からゆっくりと何かが目覚める感じの出だしは鳥肌が立つ。遠くに聞こえるホルンやオーボエも凄く良い。そして全ての楽器が顔を出したとき、小澤マジックが始まるのである。
第2楽章
副題が「力強く運動して」と付けられた第2楽章のボストン響の演奏は、副題のとおり、力強い弦楽器とホルンの優雅な旋律が美しい。中間部のホルンから弦楽器に受け継がれるところは小澤のオーケストラに対する歌わせ方が上手い所為なのだろう、心地よく聞くことが出来る。また冒頭のフレーズに戻り、力強さが再び登場し、最後は綺麗にキマる。
第3楽章
第3楽章はニ短調。「オーストリアの子供の”森の動物達が、棺を運んでいる”」に触発された葬送行進曲で幕をあける。この部分では主題として、民謡「マルティン君」、「フレール・ジャックの変種の一つ」が、コントラバスの独奏で登場。その後、クラリネットによる「さすらう若人の歌」の最後の曲、「彼女の青い目が」に基づく、ト長調の学説が登場し、慰めが見出される。小澤の解釈は落ち着いたテンポで上手く聞かせている。
第4楽章
シンバルの鋭い音と管楽器の胸を突く響きが終楽章の始まりを告げる。アメリカのオーケストラらしいド派手な金管が非常に目立つ。少し遅めのテンポで進んでいく。遅めのテンポを取ることで、細部まで磨きのかかった非常に素晴らしい演奏となった。小澤は一切の誤魔化しを見せない完璧な指揮でこの大曲の最後を創り上げている。クライマックスはブラヴォーと叫びたい!
録音:1987年 ボストン、シンフォニー・ホール

 

演奏:リュブリャナ放送交響楽団 指揮:アントン・ナヌット 評価:★★★1/2
第1楽章
皆さんはこのオケを知っているだろうか。リュブリャナなんていい辛い名前を持ったオーケストラのことを。このリュブリャナ放送交響楽団はスロベニアを代表する交響楽団であるが、世界レベルで言うと3流である。市場へはディスカウント・ショップの海賊版CDなどでよくこの名前を見かける。僕は小さい頃このCDを買っていた。僕は上手いオケも好きだが、下手なオケも好きだ。このオケは有名でも上手くもないけれども、僕はこのオケの演奏は好きだ。なぜならば影に埋もれてしまっているけれども、それなりに頑張っている姿が演奏から聞き取れるからだ。ベルリン・フィル、シカゴ響、ロンドン響など上手いオケには叶いもしないが、このオケにはどこか他にはない魅力を感じてしまうのだ。指揮をするナヌットという人も調べれば大そうなオヤジで、結構年取っている。ずっと何年間もこのオケと接してきた指揮者である。その指揮者がマーラーを演奏した。オケの技術も相当問われるであろうマーラーを、だ。しかし彼らの頑張りようがこの演奏を素晴らしいものに変えた。日本のオケ(N響以外)よりはいい音がしていると思う。音を外しても取り直さないところも素晴らしい。そんな第1楽章も遅いテンポながら実に丁寧に仕上げている。トランペットの音が少し貧弱と感じる人もいるかもしれないが、そこがまた良いところ。最後もなかなかの盛り上がりを見せる。
第2楽章
第2楽章の冒頭、弦楽器の動きにもう少し余裕がほしいところだが、そうは言ってられない。このオケは仕方が無いのだ。その点、金管楽器や木管楽器は上手いと思う。頑張りどころが良く伺える。
第3楽章
ここでも弦楽器の弱々しさは目立つが、何とか弦以外がカバーしてくれている。木管の音色は美しい物である。

第4楽章

試聴

冒頭のシンバルに続くバスドラムの爆音が良い。テンポも結構遅い。弦楽器の荒々しさが随所に目立つが、もはやここは他の楽器に頼むしかないといわんばかり、金管楽器が鳴りに鳴らしまくっている。打楽器も強打!強打!の連続。トランペットの1stの人、かなり辛そう・・・。このオケはいろんなところに危険性を感じさせるが、ヘタなりの根性を全面に出した魅力的オケでもある。それはこの終楽章を聞いてもらえればよく分かると思う。非常に頑張っている彼らの姿を実感してもらえると思うから。他が滑ってもどこかがカバーするチームワークも良い!
録音:不明

 

 

 

演奏:ロンドン交響楽団 指揮:ジェイムズ・レヴァイン 評価:★★★★★
総評
レヴァインは30代の頃、マーラーを立て続けに録音した。全集を作っているものなのかと思わせていたが、残念なことに「復活」と「千人の交響曲」だけは録音されなかった。マーラー全集が未完のまま終わってしまい、レヴァインのマーラー自体も忘れ去られていた。ところがつい最近、レヴァインのマーラー集が完全リマスタリングされ、再発売となった。僕はそれを購入した。僕は指揮者の中で一番レヴァインが好き。数々のレヴァインのディスクは聞いてきたつもりだったが(ニーベルングの指環は最高)、マーラーはいまだ手付かずのままだった。ディスクには巨人と悲劇的の大曲が収録されている。オケはシカゴ響かと思いきやロンドン響。シカゴ響じゃないのなら期待できないと思うかもしれないが、そんなことは全くない。ロンドン響がシカゴ響のように聞こえるから。
第1楽章
レヴァインにしては重く遅い第1楽章の序奏部分。しかし緊張感高まる演出はさすが!ブラスの鳴り方はシカゴ響ではないかと思わせる。これは終楽章にも言えること。レヴァインは何をしたんだ?ロンドン響がここまで変わるなんて。この当時のロンドン響はスター・ウォーズを入れる直前。スター・ウォーズを聞いてもここまでど迫力じゃなかったのに・・・。ショルティとロンドン響との巨人もあるが、ここまですごくなかった。そう考えるとあの巨匠よりすごいサウンドを作り出したレヴァインはやはりすごいのか?若干31歳にして巨人を録音したレヴァインはすでに巨匠??
第2楽章
第1楽章にもましてなんて力強い弦楽器!どっしりとしているが推進力は大いにある。ここでもホルンが咆えすぎなくらい咆えている。これはホントにすごいです。中間部は今までとは全く違い、非常に優しい。再び力強い弦楽器&咆えるホルン登場!レヴァインはブラスの高め方がむちゃくちゃ上手いんだなと実感。シカゴ響だけかと思ってた。ところがどっこい、ロンドン響までアメオケみたくしてしまうとはアッパレじゃ!
第3楽章
スタンダードなテンポ。しかし葬送行進曲なのにあ、明るいぞ!というような演奏。クラリネットの音がやけに澄んでいて浮いている感じはするが、これも次の終楽章を聞く前の気休めになってちょうど良い。次はやすんでいられないから。

第4楽章

ハイスピードな終楽章!バーンスタインもびっくりなブラスの大爆発!B.DとTimp.の音が尋常じゃない!特に後者のTimp.、完全に一人歩き状態。「やってられるか〜」と奏者が投げ出している様にも聞こえる。ある意味適当に聞こえてしまうんだけれども、でもこの演奏大好き!レヴァインだからと、すげー派手だから!コーダなんて聞いたらコバケンの演奏なんてかすんで聞こえてしまうぞ!コーダの推進力はバーンスタイン並みだが、それにスヴェトラーノフのド派手さがプラスされたような感じ。単にうるさいだけの演奏かもしれないが、それがレヴァイン流なんだから聴いてみようよ。絶対鳥肌立つよ!
録音:1974年