作曲者について(特徴)
 ビギンズの音楽は二人の巨匠によるコラボレートで話題を呼びました。片方は100本以上の映画音楽を手がけ日本でも超人気のハンス・ジマー。もう片方はサスペンスやスリラーやディズニー映画にも参加しているジェームス・ニュートン・ハワード。ジマーとニュートン・ハワード(以下:JNH)は共にディズニー映画でも大人気であるのが共通項でもあります。ジマーは「ライオンキング」、JNHは「ピーターパン」や「トレジャー・プラネット」といった人気作をそれぞれ手がけています。ジマーの特徴は力強いテーマおよびサウンドがウリであることに対し、JNHはドラマを題材にしたテーマを書くことが上手な点。ビギンズはブルース・ウェインがどういう経緯でバットマンになるのかが描かれた映画であるので、この二人のコラボレートは正解だったと言えるでしょう。

 


 

作品(楽曲)の考察
@.メインテーマが存在しない
 今までのバットマンシリーズはそれぞれ作曲者が変更になろうともメインテーマは必ず存在していました。しかしビギンズはどうでしょう。バットマンのテーマと呼べるテーマがありません。サントラを買う前はジマーとJNHはどんな新テーマを描くのだろうか、などと考えていました。ところが聞いてみるといつものようにメインテーマが流れてオープニングらしい匂いを感じさせる楽曲が必ず1曲目に来ていたのですが、ビギンズの場合、暗く悲しいテーマが静かに演奏されるだけに終わりました。どうしてなのか?とさらに考えてみました。しかし答えは簡単なことでした。冒頭でも述べましたが、ビギンズはどういった経緯でバットマンになるかという作品なので、過去4作品のような冒頭からバットマンが登場するような映画ではありません。これが答えです。この映画も初めからバットマンでは、ビギンズというタイトルも無駄になるし、経緯も全く無意味になってしまいます。それともうひとつ。今回はキャラクターよりも映像に合わせたスコアが多いため、メインテーマはあえて作らなかった模様です。今回のスコアはそれぞれのシーンに生えるスコアだということです。
A.過去シリーズとは明らかに違う点

 それは燃えるスコアがないということ。今回はドラマが中心な為、アクション・スコアは少なめです。しかし美しいテーマは増えました。バットマンの映画自体暗いので飛び切り明るいテーマはないですが、過去作品にはあまり見られないタイプのテーマがビギンズにはあります。ブルースが不安と苦悩の中で生きていく様を描いたスコアは絶品で、非常に感極まるものがあります。この辺はJNHが描いているのでしょう。かといってアクション・スコアが全くないわけではなく、キリのいいところに上手く詰め込まれています。アクション・スコア担当はジマーだと思いますが、今回のスコアはどう聞いても「ラスト・サムライ」の延長戦みたいにしか捉えることが出来ません。オーケストラとプログラミングされたパーカッションを加えるのは毎度のことですが、楽曲にさほどの変化が見られないため、あまり燃えることが出来ないのです。下にビギンズのスコアとラスト・サムライのスコアを載せてあります。ジマーのスコアは比べていただければ似ています。

★ハンス・ジマーの手がけるアクション・スコア 試聴  ★ハンス・ジマーの手がける「ラスト・サムライ」のスコア 試聴

★ジェームス・ニュートン・ハワードの手がけるドラマ・スコア 試聴

B.オーケストレーション
 ビギンズのオーケストレーションは弟子の面々が担当しています。その弟子のほとんどはジマーの弟子ばかり。弟子といえども皆さん全員が個人作品を出せるレベルの方々ですから侮れません。毎度のことなのですが、ジマーは追加音楽を全部弟子にやらせます。自分はとりあえず作ったら満足のようで、最後まで辛抱強く作らないようです。これは特に最近よく見られる傾向です。追加音楽はジマーの影武者みたいな能力を持った弟子たちが作るので出来上がった作品はジマーそっくりです。それを権力でさも自分が作ったようにしてしまうところがジマーらしいというか・・・。
C.総合
 過去のシリーズのようにメインテーマがあるバットマンではなくなり、場面場面でそれぞれ生えるスコアが詰まった作品です。キャラクターの固定音楽を作る時代は終わったのかもしれません。これを聞く限りではそう感じます。でも少し寂しい感じもします。バットマンのテーマだけは作ってほしかったと個人的には思いました。区切りのよい5作目にしてバットマンの音楽史も変わり始めたのでしょうか。