管弦楽作品
ワーグナーは歌劇・楽劇に付随される管弦楽作品以外にも習作と呼ばれている交響曲、オーケストラのダイナミクスさをフンダンに使ったマーチなど、聞けばいい曲なのに世間では演奏されることがほとんどない曲が結構あったりする。ここでは有名な曲から珍曲までを紹介し、さらにオススメディスクも載せていこうと思う。 |
交響曲ハ長調WMV.29 |
★★★★1/2 |
管弦楽:スウェーデン室内管弦楽団 指揮:シクステン・エールリング |
ワーグナーの初の交響曲にして、現在完成している唯一の作品である。 この作品はワーグナーが19歳のときに書かれたもので、技法も後半の作品に比べれば薄いものであるが、この作品を聞くと、後半の有名な作品の面影を感じ取ることが出来る。 曲は全4楽章から成り立ち、交響曲の基本なところはクリアしていると思える。 作風は若かりし頃のベートーヴェンもしくはシューマンやブラームスの交響曲を軽くした感じで、第2楽章の中間の重苦しい低弦の伴奏にトロンボーンが乗ってくるあたりなんかは、ブルックナーが書いた習作交響曲を思い起こさせる一面もある。ワーグナーと同様にショスタコーヴィチも19歳のときに初の交響曲を書いているが、生まれ故郷が違うだけで、これほどまでに作品が違うのかと驚かされる。ショスタコーヴィチの交響曲の方は土臭いド派手系だが、ワーグナーは19歳の作品にしては「渋い」の一言。交響曲としての下準備は出来ているので、これが19歳の作った作品であるなんて、聴いた人はまず分からないだろう。今の時代ではまず生まれない交響曲であることは確かだ。 さて、演奏の方だが私が熱いワグネリアンのお方からお借りした音源を紹介する事にしよう。 |
交響曲ホ長調WMV.35 |
★★★★ |
管弦楽:フィラデルフィア管弦楽団 指揮:ヴォルフガング・サヴァリッシュ |
交響曲ハ長調から2年後に書かれたホ長調の交響曲だが、未完に終わってしまっている。 ワーグナーがまだ21歳頃の作品で初々しさが感じられるかと思ったら、ハ長調とはまったく違う味があった。これもベートーヴェンを匂わせるような作風であるが、前作と比べると殻から抜け出したようなそんな感じを受けた。前よりやりたい事がやれているようなそんな感じだ。第2楽章の29小節目までこの作品は筆が進んでいたが、その先を進むことはもうなかった。 この曲を聞く限りでは全部書いて欲しかったと思う。それだけいい作品だと思う。いたるところで後期作品の面影をこの作品からも受け取ることが出来る。 演奏の方は同じく熱いワグネリアンのお方からお借りした非常に上手い演奏を紹介しよう。 |
序曲「ポーランド」WMV.39 |
★★★★ |
管弦楽:香港フィルハーモニー交響楽団 指揮:ヴァルジャン・コージアン |
この序曲はワーグナーの序曲作品有数の中でも滅多に演奏されない部類に入るという珍曲である。表題にポーランドと付いているが、聞いてみればどの辺がポーランドなのか不明である。曲は非常に明るい。吹奏楽でも演奏できそうなくらい華やかだ。ワーグナーにもこんなに軽い作品があったかと思うともっと早くにワーグナーに出会って(出会っていたけど飽きていた)いれば良かったとおもう次第である。
演奏の方は何と日本以外のアジアのオーケストラで香港フィルハーモニー交響楽団のフレッシュな音源である。これを貸してくださったのも、もはやこのページだけでこれを含め3回も登場している |
序曲「ルール・ブリタニア」WMV.42 |
★★★1/2 |
管弦楽:香港フィルハーモニー交響楽団 指揮:ヴァルジャン・コージアン |
ルール・ブリタニアと呼ばれるクラシック音楽はイギリスの作曲家に多いが、ワーグナーまでもがこの名前の作品を書いていたことは初耳だった。アーンが作曲したルール・ブリタニアに比べるとやはりワーグナーのほうがドイツ的だが、前半に登場する王宮のトランペット的なサウンドを聞くと、 イギリスの王宮のイメージが浮かんでくる。祝典序曲のような感じだ。 同じく演奏は香港フィル。指揮はここではじめて紹介するが、アメリカのユタ交響楽団で振った |
大祝典行進曲「アメリカ独立100周年行進曲」WMV.110 |
★★★1/2 |
管弦楽:香港フィルハーモニー交響楽団 指揮:ヴァルジャン・コージアン |
この作品は大管弦楽の為の大行進曲である。ワーグナーの作品の中で下から数えた方が早いところに位置する晩年の作品。この行進曲の次に書かれたのは、舞台神聖祭典劇「パルジファル」。 数々のオペラを書いてきたワーグナーの経験がふんだんに生かされた行進曲である。オーケストラをダイナミックに鳴らすところなんかは流石である。これはアメリカの独立100年を記念した行進曲仕立ての作品である。 「アメリカヽ(´ー`)ノバンザーイ!!」 という感じなのだろう。 フレーズはどこか楽劇・歌劇の美しいフレーズの面影が見られる。オペラと行進曲が合体したような感じかしら。しかし前半なんか特に行進曲とは思えない曲調だ。この曲調では行進なんぞできん。 後半でやっと行進曲らしくなるが、あまりこの曲調で行進したくはない・・・。しかしブラスもパーカッションも活躍するので良しとしよう。 演奏は同じく香港フィルとコージアン。聞きやすいテンポで進められて行く。ブラスも静か過ぎず、五月蝿過ぎず。ちょうど良い塩梅。 |
皇帝行進曲WMV.104 |
★★★1/2 |
管弦楽:香港フィルハーモニー交響楽団 指揮:ヴァルジャン・コージアン |
これもまた後期の作品である。ウォルトンが作曲した「クラウン・インペリアル」みたいな行進曲かと期待していたが、そんなことはなかった。ありきたりの行進曲風ではなく、オペラの前奏曲もしくは、序曲のような作風だ。どの辺が皇帝なのか。曲を聞く限りでは超優しそうな皇帝のイメージしか沸かない。のどかな王宮と優しそうな皇帝がただただ浮かんでくるだけの曲に聞こえてくる・・。やはり同じ皇帝を基にした作品でもここまでイメージが違うのは残念もあるが、面白い面もある。やはりドイツ色が強い作品である。
演奏は御馴染みの香港フィルとコージアンの一味。さほどオーケストラにキレはないが、まずまずと言った演奏なので、未知の作品が聞けた点においては満足である。 |
管弦楽曲集(序曲・前奏曲など) |
★★★★ |
管弦楽:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 指揮:リッカルド・シャイー |
なんとも軽い前奏曲なんだろう、と1曲目に収録されている「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲を聞いてこう思った。かなり前に聞いたベルリン・フィルとカラヤンのコンビのこの曲はこんなにも軽くなかった。もっとずっとどっしりとしていた。冒頭のアクセントのつけ方に少々疑問を感じるが、そこはまぁ演奏が非常に上手いので流そう。このディスクはイタリアの指揮者、リッカルド・シャイーが当時の手兵だったロイヤル・コンセルトヘボウと録音したワーグナーの超有名どころを集めた管弦楽曲集である。ヴァルキューレの騎行も今や超有名曲だがあらためて聴いてみるとその壮大さに気づかされる。シャイーの演奏はオケをコントロールし、ややホルンを抑え目にしたところで低音の楽器、つまりトロンボーンやテューバの音を良く聞かせるようにしている。弦の綺麗さはすでに分かっていることなので書かないことにする。タンホイザー序曲も軽めの演奏ではあるが、何故か憎めない演奏でもある。序曲から切れ間なく続くバッカナールもいい味を出している。神々の黄昏の有名な2曲(葬送行進曲とラインへの旅)も逆にドイツっぽく聞こえないところがいい。最後は「ローエングリン」から第3幕への前奏曲である。これもカラヤンの演奏のようなどっしり系を先に聞いてしまうとずいぶんと軽量化された作品に聞こえてしまう。が、シャイーはシャイーでいいところがあるので本当に憎めない。ブラスを軽めにしている点とは逆にこれをする事によって、裏の木管の美しさが細部まで分かるのでこういう表現方法も嫌いではない。「いや、ワーグナーの作品はやっぱりドイツの演奏じゃないと!」と思っている人が聞いたら反感を買ってしまう演奏かもしれないけど・・・。 |
まだまだ製作中!