トーマス・ドスは1966年に音楽家の家系のプロの音楽家の両親の間に生まれ、リンツのブルックナー音楽院、
ウィーン音楽大学、ザルツブルクのモーツァルティウム音楽院、オランダのマーストリヒト音楽院で、
トロンボーンと指揮、そして作曲を学びました。
その後アメリカに渡り、カリフォルニアの「ユニバーサル・スタジオ」のスタッフとして
ジョン・ウィリアムズの下でいくつかの映画音楽に携わりました。
指揮者としてもヨーロッパのオーケストラや室内合奏団で実績を残しています。
Alpina Saga 「アルピナ・サガ」 〜トーマス・ドス作品集〜 |
演奏:ヨハン・ヴィレム・フジョー・カペル 指揮:ヤン・デ=ハーン |
このCDはドスの作品を出版している「スイスのミトローパ・ミュージック」からリリースされた吹奏楽作品集です。演奏は、オランダの4つの軍楽隊で最も長い歴史と伝統を誇り、デ・ハスケのCD録音などにたびたび登場して世界中にその名が知られる「ヨハン・ヴィレム・フジョー・カペル」の演奏です。 |
1.Montana Fanfare |
コンサートのオープニング曲にぴったりの「モンタナ・ファンファーレ」は、ドイツ・ザルツブルクの東に広がる湖水地帯で「サウンド・オブ・ミュージック」の舞台にもなった、「ザルツカンマーグート」の山歩きでインスピレーションを得て書いたと言われています。金管楽器の派手なファンファーレから幕を開け、スネアドラムのリズムに乗り、ホルンと木管楽器がテーマを演奏します。それが繰り返された後、冒頭のファンファーレが登場し、スネアのリズムがフェードアウトしていくと曲は終わります。 |
2.St. Florian Choral |
「セント・フローリアン・コラール」は、アントン・ブルックナーを追悼して書かれました。とても美しいコラールです。木管楽器の優雅な調べが感動を誘います。派手な曲を演奏した合間にやると効果的な曲だと思います。 |
3.Alpina Saga |
10分にも及ぶ交響詩「アルピナ・サガ」は、アルプスを題材にしています。ドラマチックで雄大な交響詩です。この曲を聴くとスティーヴン・メリロの作品にも似ている部分があると思ってしまいます。だがらこの作曲家を好きになったのかもしれませんが・・・。曲は冒頭のファンファーレを終えると、テンポを上げ、木管楽器による主題が提示されます。この部分を聞くと、ジェームス・スウェアリンジェンの音楽みたいです。やがて「アルピナ・サガ」の主題が木管楽器によって幾度となく提示され、中間部はリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」を思い起こさせるようなホルンが聞かれ、その後に神秘的なコーラスが入ります。さすが、ジョン・ウィリアムズの下で働いていただけあって、映画音楽的手法が随所に見られます。中間部後半はロマンティックに木管楽器によりメイン主題が演奏されます。再び打楽器の早いリズムが登場すると、冒頭のメロディが登場し、コーダへと向かいます。コーダではメイン主題が複雑に絡みながら、壮大に奏で、幕を閉じます。難易度的には、それほど難しくないので(メリロほどではない)、演奏はしやすいと思いますよ。 |
4.Sidus |
リヒテンシュタイン音楽連盟創立75周年を記念して委嘱された「シドゥス」はラテン語で星を意味します。夜空に光る無数の星とその背後に広がる無限の宇宙に思いをはせる哲学的な内容を持った作品で、20分近い大曲ですが変化に富んだ魅力たっぷりの逸品です。 これも映画音楽を聞いている可能な面白さ、そして感動があります。これまたホルンの使いっぷりが大変よろしい! クライマックスは、チャイムが鳴り響く中、壮大に幕を閉じます。 |
5.II Briccone |
上部オーストリア州吹奏楽連盟の委嘱で作曲されたコンサートマーチ「イル・ブリコーネ」はイタリア語でいたずらっ子や悪党といった意味がありますが、むしろタイトルから受ける印象とは異なるエレガントでスマートなマーチです。吹奏楽独特のマーチと言う感じではなく、どこかシンフォニックな味のするマーチの気がします。ユーフォニウムの奏でるメロディがとても綺麗です。そんなに難しくはないので、コンサートやコンクールでも演奏できると思いますよ。 |
6.NYX |
「ニクス」はギリシャ神話の夜の女神のことで、混沌「カオス」の中から最初に生まれ、「ゼウス」からも畏れられていました。大地の女神「ガイア」、海の女神「テティス」とともに、万物の始まりの物語の中で重要な役割を果たしたとされています。その女神の名が付けられたこの曲は、万物を構成するとされた4つの元素「空気」「火」「水」「大地」と名付けられた4曲からなり、世界の母としての偉大さと、一方で争いの女神「エリス」や死神「タナトス」など悪に根ざす神々をも生んだ暗い面とを併せ持つ、「ニクス」にふさわしいスケールの大きな作品となっています。 |
Aurora 「アウローラ」 & Atlantis 「アトランティス」 |
演奏:バーデン=ヴュルテンベルク・ウインド・オーケストラ 指揮:トーマス・ドス |
「ミトローパ・ミュージック」の新鋭作曲家の作品を集めたこのCDの中にドスの作品が2曲収録されています。ギリシャ神話に出てくる「夜明けの女神」の事を指す「アウローラ」。この作品は人気吹奏楽作曲家、「ヤン・ヴァン・デル=ロースト」に捧げられた曲です。これもまた神秘的な曲です。しかし楽器の使い方などは上手いです。そしてもう一つは3楽章構成の「アトランティス」。近畿大学が演奏会で取り上げて一部噂になっていた曲です。この曲のほうが「アウローラ」より難しいでしょう。大編成の楽団じゃないときついかもしれませんね。曲自体は申し分ありません。 |