フィリップ・スパークは1951年12月29日、ロンドンに生まれました。
11歳からピアノとヴァイオリンを始め、その後数年間のうちにユース・オーケストラや
地方のアマチュア・オーケストラに参加し、多くの作曲家や指揮者について学びました。
また、この10代前半にはすでに作曲にも手を染め、オーケストラ用の作品をいくつか書いています。
しかしその後、スパークは左ききだったこともあり、トランペットに転向し、
ブラスバンドの道に進んでいきます。
スパークは、これまで多くの作曲賞を受賞し、現在でも、発表する全ての作品が
レコーディングまたは放送されるという人気作曲家です。
エンジェルズ・ゲートの日の出
Sunrise at Angel's Gate
2000年に米国陸軍野戦軍楽隊とその指揮者ファインリー・ハミルトン大佐の委嘱で作曲されました。
スパークはこの曲についてこう語っています。
「1999年10月のある日、米国アリゾナのフラッグスタッフ(州のほぼ中央、少し北寄りの町)にある
北アリゾナ大学の100周年に招かれた私は、大学から車で約2時間のグランド・キャニオンを訪れました。この自然の壮大な景観を説明する事は不可能です。写真で見たことのある人も、実際に行って見ないとその印象は分からないでしょう。日の出と日没はグランド・キャニオンの一番素晴らしい時で、中でもエンジェルズ・ゲートから見る北側の岩壁は素晴らしく、私はこの曲で、その眺めを画いてみたいと考えました。
初めの部分は、鳥の声が聞こえ、次第に太陽が昇って岩壁を照らし始める様子を画いています。中間部は沢山の観光バスが谷の南側へ到着する事を描き、曲は終わりに向かいます。夕べの鐘が鳴って、この美しいグランド・キャニオンがまた危険な場所である事を思い起こさせます。」
曲はこの解説のように、遅い-速い-遅いの3部形式で、クラリネットとオーボエによる鳥の鳴き声から始まり、岩壁が朝日に浮かび上がる情景が描写され、テンポを速めて忙しい中間部に入ります。最後は最初の部分が少し形を変えて現れ、静かに幕を閉じます。
演奏:大阪市音楽団 指揮:渡邊一正 |
大阪市音楽団の定期演奏会からのライヴ録音。ライヴとは思えない落ち着いた演奏です。冒頭の美しい木管楽器。中間部の激しい描写。後半の静けさの表現の仕方など、市音の上手さがひしひしと伝わる名演奏になっています。 |
ドラゴンの年
The Year of the DRAGON
ドラゴンの年は、スパークの最も成功を収めた作品の一つと考えられます。わずかな時期に数々のバンドが録音し、今日では世界中のトップ・ウィンド・オーケストラのスタンダード・レパートリーの一つとなっています。この作品の題名はウェールズの赤い龍(レッド・ドラゴン)を題材にしており、コーロー・バンドの結成100周年を記念して作曲を委嘱されました。1986年にウェールズの首都カーディフで開催された「ヨーロッパ・ブラスバンド・チャンピオンシップ」では課題曲にもなっています。はっとするようなヴィルトゥオーゾ性と圧倒的なパワーを持つ音楽表現が結びついて、この作品の全体的印象が形成されています。本来はブラス・バンドだけの為に書かれていますが、そのセンセーショナルな成功によって、スパーク自らがシンフォニック・バンド用の版も書いています。
初演当時は4楽章編成だったこの曲は第1楽章だった部分を削り、今日演奏される第3楽章編成になっています。削られた第1楽章は別の名前(ロンドン序曲)を付けられて今も演奏されています。
吹奏楽用版「ドラゴンの年」解説
第1楽章:トッカータ
金管楽器とスネアの鋭利なリズムによって始まります。舞曲のような情熱的なリズムで躍動する部分を経て、冒頭の発展音型が現れ、曲は深みの中に沈んでいきます。
第2楽章:間奏曲
印象的な下降音型に始まり、直後、コールアングレの気だるげでもの悲しいソロが現れます。中間部は賛美歌のように美しく、進行とともに増幅しながらトゥッティで高まりの頂点へと向かいます。
第3楽章:フィナーレ
モルト・ヴィヴァーチェでエネルギッシュに演奏される大変躍動的な楽章です。ソリスティックな旋律が各パートに次々と交錯しながら現れ、スリリングな展開が続きます。クライマックスではチャイムが煌びやかに続く中にファンファーレが現れ、壮大、華麗なエンディングへと昇りつめていきます。
演奏:東京佼成ウィンド・オーケストラ 指揮:エリック・バンクス |
エリック・バンクス氏が来日するというので聞いてみた演奏です。吹奏楽版のドラゴンの年を聞いたのもこの演奏です。やっぱり佼成は上手い。この演奏は佼成がイギリスに行ったときにレコーディングしたもので、指揮者のバンクスはイギリスを代表する指揮者としても有名。本場イギリスの指揮者によるドラゴンの年はテンポも幾分速めでなおかつ丁寧な仕上がり。吹奏楽用版入門者にはお勧めできる1枚。 |
演奏:シンフォニック・ウィンズ 指揮:アレクサンダー・ファイト |
佼成のを聞いてからドラゴンにはまりいろいろな音源を集め始めました。その記念すべき2枚となるのがこのシンフォニック・ウィンズの演奏です。スイスの吹奏楽団でキャリアもまだ少ないというこの楽団はそんなことお構いなしな演奏をしてくださっています。全体的に少し速めのドラゴンの年。フィナーレは軽快に進んでいきます。でも少し金管楽器に迫力がないかなと思う演奏です。 |
演奏:川口市・アンサンブルリベルテ吹奏楽団 指揮:近藤久敦 |
埼玉県を代表するアマチュア吹奏楽団、アンサンブルリベルテのゆったりとしたドラゴンの年です。このCDを買ったのは3枚目となります。本当にゆっくりなんですが、その分すごく丁寧。フィナーレなんかめちゃ遅いんですけど、金管の迫力は素晴らしいものがあります。アマチュア吹奏楽団の正統派ドラゴンの年です。上手い! |
演奏:ブリタニア・ビルディング・ソサイエティ・バンド 指揮:ハワード・スネル |
この音源は吹奏楽版ではなくて原曲のブラス・バンド版。そしてこの演奏はとてつもなくすごい。コンテストの演奏で日本のコンクールなどでは絶対に聞かれないような演奏。聞いたら最後までぶっ飛び続けます。しかも鬼のように速く、このテンポで吹奏楽版をやったら確実に地獄行きでしょう。極めつけはフィナーレの強烈な速さ。クライマックスのファンファーレが登場するところでは、テンポをどんどん、これでもか、これでもかってあげていきます。本当に鬼の速さです。曲が終わると大拍手!これは当たり前でしょう。とにかくヤバイ演奏です! |