ハミルトン・ハーティ(1879-1941)は、19世紀末から20世紀初頭に活躍したアイルランド(ダウン州ヒルズボロー)生まれの作曲家。同じくアイルランド出身のハーバート・ヒューズ(1882-1937)、チャールズ・スタンフォード(1852-1924)らと共に、当時の音楽界の発展に大いに貢献しました。
 当初ピアノ伴奏者として定評のあったハーティは、1920年にマンチェスターのハレ管弦楽団の指揮者(1933年まで就任)に抜擢され、そこで大成功をおさめた後、オスロ他いくつかのヨーロッパ諸国の交響楽団を手がけるようになり、1935年にはナイトに叙せられました。
 作曲家としては、1939年に故国アイルランドの先駆者ジョン・フィールド(1782-1837)のピアノ曲を管弦楽に編曲した「ジョン・フィールド組曲」を発表。その他、ヘンデルの作品「水上の音楽」「王宮の花火の音楽」をオーケストラのためにアレンジしたハーティ版をはじめ、アイリッシュ・トラッドの伝統を色濃く反映させた彼の代表作「アイルランド交響曲」他、カンタータ、ピアノ四重奏曲、バイオリン協奏曲、オーケストラ作品など数多くの作品を残している。

アイルランド交響曲 An Irish Symphony
1.ネイ湖岸にて 2.定期市の日 3.アントリムの丘陵にて 4.十二夜
 ハーティに初めて接するのであれば、この交響曲が最も馴染みやすいのかもしれません。威風堂々とした旋律の中で、なんとも言えない哀愁を感じる第1楽章「ネイ湖畔にて」の優しい旋律はハーティ独特の魅力です。第2楽章「定期市の日」と第4楽章「十二夜」では、アイルランド民謡を美しく昇華させた曲で、一聴すればどこかで聴いたことのある懐かしい旋律に親近感を感じることでしょう。第3楽章「アントリムの丘陵にて」における弦楽器群のあこがれと悲壮感の漂う美しい旋律は、この交響曲の最も印象的な楽章です。アイルランドといえばケルト音楽。ケルト音楽といえば今巷で大人気のリヴァー・ダンス。特に後者のリヴァー・ダンスが好きで好きで好きでたまらない人は、何も言わずにこれを聞きなさい!!リヴァー・ダンスを生んだ故郷アイルランドがモチーフの壮大なシンフォニー。オーケストレーションの上手いハーティが織り成す音楽絵巻。私がこの曲を聴いたのは、まだリヴァー・ダンスがそう流行っていない時。すでにケルト音楽へとはまっていた私はこのCDを手にとり、カウンターへ急いだ。早速家に帰って大ボリュームで聞いてみると、その美しい音楽に完璧にノックアウトでした。特にCDの最後を飾るこの交響曲は何度聴いたか分かりません。聴きやすい、そして飽きの来ない美しい音楽。私の心はこの曲で癒されていたのでした。この曲を演奏しているのは、本場アイルランドの国立交響楽団。そして指揮はプロインシャス・オドゥイン(おそらくこの人のことを知っている人は国内でもごく少数と思う)。この人は単なる無名指揮者ではありません。リヴァー・ダンスを見に行った人なら分かるかな?サントラでも解説書をよく読めば分かると思いますが、リヴァー・ダンスを演奏しているオーケストラの専任指揮者なんですね。なのでリヴァー・ダンスの日本公演の時には日本に来て演奏していたというわけです。そんな人がアイルランドのクラシック音楽をアイルランドのオケで指揮してるんだから、これ以上の組み合わせは無いでしょう。本場のアーティストが生んだ魅力あふれる演奏を皆さんも一度味わってみてください。
演奏:アイルランド国立交響楽団 指揮:プロインシャス・オドゥイン
発売レーベル:NAXOS

 

アイルランドにて -フルートとハープの為の協奏曲- In Ireland
 フルートとハープとオーケストラのための、演奏時間約9分の小品。美しいハープの出だしに続いてフルートが物憂げな美しい旋律を歌います。やがてフルートとオーケストラによる軽快な旋律を経て、叙情的な旋律を歌いつつ、明るく全曲を閉じます。民族色豊かなフルートとハープのための協奏曲、という趣となっています。この曲もケルト音楽好きとフルート奏者は聞くべきでしょう。フルートの音色がケルト風音楽に乗って奏でられていきます。結構テクニックを要する曲ですが、アマチュアオーケストラの方も十分に演奏できるでしょう。他にもいくつかこの曲のCDが出ていますが、少し速めのテンポで聞きやすいオドゥイン版をオススメします。吹奏楽関係者も聴く価値あり。
演奏:アイルランド国立交響楽団 指揮:プロインシャス・オドゥイン
発売レーベル:NAXOS

 

ワイルド・ギースと共に With the WILD GEESE
 この曲は、1745年に起きたフランスでの戦争(フォンテーヌの戦い)に参加したアイルランド軍隊の活躍と故国へ帰還するまでの物語を題材に書かれた交響詩。ブラスの輝かしい響きで始まるこの曲は、ひたすら叙情的な旋律に固執するハーティ節とは一線を画し、アイルランド軍隊の活躍の様を威風堂々とした旋律で描いた賛歌となっています。これもまた大変シンフォニックな作品です。ハーティの大交響詩というべきでしょうか。大迫力のオーケストレーションが楽しめる作品となっています。演奏のほうもオドゥインの指揮に完璧に息を合わせてきめ細かな演奏しています。約18分ですが、全編興奮のしっぱなしなので、あっという間終わってしまうという感想を常に持ちます。
演奏:アイルランド国立交響楽団 指揮:プロインシャス・オドゥイン
発売レーベル:NAXOS