写真:左から M.オールソップ(指揮者)、M.ドアティ(作曲家)、E.グレニー(打楽器奏者)
 マイケル(ミハエル)・ドアティは1954年アイオワのシーダーラピッズに生まれた。5人兄弟全員がプロの音楽家である。最近メキメキと頭角を現してきたドアティの作品の多くは、現在スイスのチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団で多数の録音を残し続けている指揮者、デイヴィッド・ジンマンと当時の手兵であったアメリカのボルティモア交響楽団によって初演されている。ドアティはアメリカで確実に人気を伸ばしており、アメリカの名門オーケストラからもたくさんの委嘱作品を求められる多忙な日々が続いている。

 

交響曲第3番「フィラデルフィア・ストーリーズ」
★★★★★
管弦楽:コロラド交響楽団
指 揮:マリン・オールソップ

 交響曲第3番「フィラデルフィア・ストーリーズ」はフィラデルフィア管弦楽団の創立100周年記念と音楽監督だったヴォルフガング・サヴァリッシュのために作曲されました。 世界初演は2001年11月15日にフィラデルフィア(ペンシルバニア)の音楽院にてデイヴィッド・ジンマンとフィラデルフィア管弦楽団によって行われています。 この作品は全3楽章構成で、第1楽章:「サウス・ストリートの日没」、第2楽章:「告げ口ハープ」、第3楽章:「ストコフスキーの為のベル」から成っています。

・第1楽章:「サウス・ストリートの日没」・・・この楽章は、ドアティ自身が見たフィラデルフィアのサウス・ストリートの風景をそのまんま思い描いています。カフェでコーヒーを飲む人々、古本屋、レストランなど。そしてフィラデルフィアに住んでいた様々なアーティストたち。ジョン・コルトレーン、ファビアン、スタン・ゲッツ、アルマルティーノ、マリオ・ランザなどドアティが彼らと過ごしたサウス・ストリートでの思い出をこの楽章は教えてくれます。

・第2楽章:「告げ口ハープ」・・・この楽章は2台のソロのハープとオーケストラのための8分のアラベスクです。次にドアティが描くのはフィラデルフィアにある幽霊通り(ゴーストストリート)の真夜中の風景です。ここは昔、世界的作家のエドガー・アラン・ポーが住んでいたところです。 怪奇現象のおきそうなこの通りをドアティはハープを使ってミステリアスに仕上げました。住民が寝静り、街灯も消えた幽霊通りをハープと木管が描いていきます。

・第3楽章:「ストコフスキーの為のベル」・・・吹奏楽版はもうとても有名になってしまいました。オケ版を聞いた方は逆に吹奏楽版の存在を知らなかったでしょう。ドアティはこの楽章を最後に持ってくることによって、フィラデルフィアの文化に最も貢献した偉大なる指揮者、レオポルド・ストコフスキーへのオマージュとしてこの作品を書きました。ストコフスキーは少し代わった指揮者でしたが、当時全くの無名だった作曲家やその作品を世界中のオケで演奏し、広めたという素晴らしい功績を残しています。その中にはストラヴィンスキーやホルストなどといった大作曲家の作品も含まれています。そして何より有名にさせたのが、ディズニー映画「ファンタジア」。彼はここへフィラデルフィア管弦楽団と登場し、一気にスターとなりました。この映画に出る前も「オーケストラの少女」という素晴らしい音楽映画にも出演するなどストコフスキーはクラシック音楽の普及に惜しみなく人生を費やした人でありました。ドアティはそんなストコフスキーが日の出にフィラデルフィアへ訪れ、自由の鐘を鳴らして、都市全ての鐘がそれに共鳴するという物語を描きました。中にはストコフスキーが得意としたバッハの作品を挿入したりしています。曲のクライマックスではストコフスキーの思い出が走馬灯のようにめまぐるしく登場し、大迫力の中、幕を閉じます。

 この作品を演奏しているのは世界的に有名となった女流指揮者「マリン・オールソップ」と彼女が音楽監督を務めるアメリカのコロラド交響楽団。抜群の切れ味でこの難解なストーリーを組み立てていきます。第1楽章ではギターやラテン楽器が登場し、現代音楽を彷彿とさせますが、第3楽章のようなコテコテの現代音楽ではなく、少し後期ロマン派の入ったような両サウンドを見事に演奏できる素晴らしさはオールソップの得意中の得意。録音も良いし演奏も良いし、貴重な録音なので絶対聴いてみることをお勧めします。特に吹奏楽版の「ストコフスキーの為のベル」が好きな人は絶対聞くべし。個人的意見なのですが、吹奏楽版よりオケ版のほうが出来が良いです。吹奏楽版に見られる冒頭のサックスの・ソロよりもオケ版のヴァイオリン・ソロの方が断然素晴らしいと思います。