作曲者について(特徴)
 バットマン史上最高のスケールで描かれたスコアだと自分ではそう考えます。TVシリーズから30年近くたった1989年にリメイクされたバットマンの記念すべき第1作が作られました。そしてその音楽を担当したのがダニー・エルフマン。想像を絶する音楽を創り出し、バットマンファンのみならず、一般の方々も音楽のとりこにしました。バットマンのメインテーマは木管楽器による悲しいテーマから始まったかと思えば、金管楽器の爆発的主題に切り替わりあっという間にバットマンの世界へ。オープニングシーンだけでも鳥肌が立つほどのかっこよさです。ところでエルフマンの最近の活動は非常に多彩でバットマンのようなアクション映画も担当したかと思えば、シンプル・プラン(サム・ライミ監督)のようなドラマの音楽も作ったりします。最近久しぶりにバットマンのようなメインテーマを作ったスパイダーマンも記憶に新しいですね。

 


 

作品(楽曲)の考察
@.やはりあの有名なテーマ!
 ワーナーブラザーズ配給による第1弾のバットマンのテーマは低弦とバスーンによって初めてお目見えします。映画を見てもらえると分かるのですが、オープニングは「何やらここは下水道か!」と思わせるようなくらい感じを受けますが、だんだんカメラが上昇していくとこれはバットマンのマークだというわけです。そのバットマンのマークが完全に出ると「Directed:Tim Burton」の文字が出ます。ここでテーマ曲はド派手に終了するわけです。パーカッションの激しいリズムの上に同じく炸裂系のブラス・セクションがエルフマンの創り出すダークなテーマを吹き散らします。このテーマ曲はめちゃくちゃカッコいいので、聴いたことない人(いるかな?)は必ず聞きましょ!
A.変奏曲風にサウンドトラックは展開されていく。
 ヒーローモノの音楽は大抵のようにテーマがあり、そのテーマがどんどん形を変えて登場するのが鉄則。バットマンもそれにしっかりと従った作りとなっています。エルフマンはバットマンのテーマを最重視し、悪役に決まったテーマを与えていません。あくまでこの第1作はバットマンが主役として作られています。
B.斬新なオーケストレーション。

 実際、オーケストレーションというものは作曲家がやるのが基本です。特にクラシック音楽の作曲家は。でも映画音楽の作曲家たちは作曲は出来てもオーケストレーションが全くのど素人という人の方が多いので、オーケストレーションは別の人が担当している場合が主流です。バットマンも残念ながらエルフマンはやっておらず、シャーリー・ウォーカーという女流作曲家が行っています。ウォーカーは本作品でオーケストレーション、編曲、オーケストラ指揮までをこなすプロフェッショナルな方です。ウォーカーの行ったオーケストレーションは大変見事なもので、巨匠、ジョン・ウィリアムズも顔負けモンです。そして出来上がったスコアを大編成のオーケストラ相手に指揮し、レコーディングを行っていくわけですが、ウォーカーは指揮も完璧で100人のオーケストラを見事に纏め上げ、完璧なまでの一連の作品を作り上げたのです。エルフマンが書いたピアノ譜からここまで素晴らしい大管弦楽の作品が出来ようなどと誰が想像したでしょうか。バットマンはこのようにウォーカーの力があってこそ出来上がった作品であるのです。

★ウォーカーの大変素晴らしいオーケストレーション 試聴

C.総合
 まだ作曲経験の少ないエルフマンがいきなりの大作を手がけたこの作品。映画音楽界にも衝撃が走るほどでした。幾度となく行われた試行錯誤の末に生まれた完璧な音楽。想像を絶するダイナミックなスコアになりました。ここからニュー・バットマンの歴史はスタートしていくわけです。たかだかヒーローモノの映画にこれほどまでの音楽を付けたエルフマンはすでに巨匠の仲間入りを果たしていたのであると考えます。