〜自分の中ではシカゴ響を超えた!〜


 

 皆さんはアトランタ交響楽団という楽団を知っているでしょうか?僕も名前は知っていたものの、最近まで実際に音を聞いたことはありませんでした。過去にこの楽団はジョン・ウィリアムズが作曲した地元アトランタでのオリンピックの際に開会式でファンファーレを演奏した楽団でもあるのです。が、有名なのはそれくらいで彼らが作品集をリリースしても話題はそれほどでもなかったようです。僕がこの楽団の魅力にはまってしまったのは何気なく買ってしまったマーラーの交響曲。当時音楽監督だった若手指揮者ヨエル・レヴィが本来ディスク2枚になってしまうこの作品を怒涛のテンポで1枚に収めてしまったアルバムです。僕は結構速いマーラーが好きなのでオケうんぬんというよりもテンポ設定と1枚になった価格のお手ごろさだけで買ってしまいました。とにかくあんまり期待していなかったことだけは確かです。

 今までアメリカのオーケストラは・・、といいますと「シカゴ交響楽団、ボストン交響楽団、フィラデルフィア管弦楽団、クリーヴランド管弦楽団、セントルイス交響楽団、ボルティモア交響楽団、デトロイト交響楽団、ダラス交響楽団、ロス・アンジェルス・フィルハーモニック、サンフランシスコ交響楽団、ニューヨーク・フィルハーモニック、ミネソタ管弦楽団、ピッツバーグ交響楽団、シンシナティ交響楽団」など挙げればキリがないほど聞いてきたつもりだったんですが、アトランタ交響楽団だけは何故かずっと手付かずのままでした。アメオケの中では「シカゴ・ボストン・ボルティモア・シンシナティ・ピッツバーグ」が僕の中で5大オケとして君臨していました。しかしこのページの頭にもあるようにアトランタ響を聞いてからというもの5大の中の「シカゴ響」がランク外になってしまいました。確かにシカゴ響も凄いんですが、ただ五月蝿いだけという固定イメージの方が自分の中では強く、アトランタ響も鳴らすには鳴らすのですがシカゴ響にはない「音のまろやかさ」があるので、僕はそちらに強く惹かれたのでした。

 アトランタ響は現在、アメリカの最強レーベル「テラーク」と精力的に録音活動を展開しています。レヴィの後を継いで音楽監督に就任した「ダニエル・ラニクルズ」のもと、管弦楽曲のみならずオペラ、声楽曲、宗教曲など色々なジャンルの作品を録音中です。

 

〜私がオススメするアトランタ交響楽団の名演奏〜

 

マーラー:交響曲第6番
指揮:ヨエル・レヴィ
録音:1997年

 僕がマーラーの交響曲の中でも一番好きなのがこの第6番。全曲で約85分という長大な作品ですが、全くもって長さを感じずに最後まで聞くことが出来ます。他のマーラー作品も聞くようにはしてるのですが、どうも途中でだれてしまう所為かこの6番みたいには行きません。

 さて当時音楽監督だった若手指揮者「ヨエル・レヴィ」が録音したマーラー交響曲全集の中から初めに紹介するのはこの第6番です。なぜならばこれが僕が最初に買ったアトランタ響のディスクだったからです。上記にも示したとおり本来の演奏時間は約85分で、大抵の演奏は2枚組みとなり倍の値段でかわされますが、レヴィの演奏は何と78分。ディスクギリギリの収録時間。ちなみにこの盤を聞くまでに聞いていたのが元5大アメオケシカゴ響&ショルティの盤。しかしこれは79分と限界の限界でした。ショルティの演奏がコンピュータ打ち込み系の演奏で大変リズミカルで聞きやすく、尚且つブラスがフィーバーしていたのですが、レヴィ盤は怒涛の速さなのに機械的なところは見られず、むしろ自然体です。

 アトランタ響って結構ブラスが凄いんです。シカゴ響のようにストレートではないですが、アメリカのオケの中では良く鳴っている部類に入ります。あとテラークレーベルの貢献度も高いのもポイントです。テラークの録音技術はトップといっても過言ではないと思いますし。

 アメリカのオケといえば「シカゴ!」という固定概念はこれで消え去りました。アトランタ響は中堅ながらも着々と5大オケの仲間入りを目指して修行を積んでいます。それはレヴィが音楽監督としての役割を果たしたことが一番の理由なのではないでしょうか。現在彼はどこかへ行ってしまいましたが、残された録音はそれをしっかりを証明していますので、興味を持った方は是非とも一度聞いてみてください。特にマーラーは最高の出来ですよ。

 

マーラー:交響曲第1番
指揮:ヨエル・レヴィ
録音:1999年

 交響曲第6番を皮切りにレヴィ盤マーラーの収集が始まりました。次に聞いたのは皆さんご存知の「巨人」こと第1番。第6番が怒涛のテンポだったからもしかして巨人も速いのかと思いきや、いたって普通。しかし第6番の2年後に録音されている所為かオケ全体のレヴェルが向上しているように感じられました。

 第1楽章の緊張感のある出だし、盛り上がった頂点の表現の仕方、巨人オリジナルヴァージョンとして第2楽章に「花の章」を入れていることなどレヴィの拘りが垣間見れます。今まで巨人に関してはレヴァインがロンドン響と録音した盤を中心に聞いていましたが、あの爆音大王のレヴァイン盤よりもホルンがはじけているところが凄いです。アトランタ響はロンドン響を超えてしまったわけで・・・。

 終楽章のブラスの燃えっぷりはもはや説明不能。レヴァイン盤より劣るものの録音の高さでは一級品。ちょい遅めのテンポでクライマックスを一気に築き上げます。

 

ショスタコーヴィチ:交響曲第5番&第9番
指揮:ヨエル・レヴィ
録音:1989年

 レヴィとアトランタ響がマーラー全集を録音する約10年も前にショスタコーヴィチの名交響曲を録音していました。この頃からすでにアトランタ響の凄まじさは生まれていたのです。今や吹奏楽コンクールで取り上げられるようになった革命(日本人だけがこう呼ぶ)とショスタコーヴィチが今までの第9という名の交響曲スタイルを覆したおちゃめでコミカルな第9番の2作品。

 まずは第5番。第5番はとても人気のある作品で、色々なアーティストたちが録音していますね。一番有名なのはこの作品を初演したロシアの名指揮者ムラヴィンスキーの盤。彼は生涯にこの作品を1000回以上も演奏したといいます。録音も一番多いんじゃないでしょうかね。それだけこの作品に思入れを持っていた指揮者でした。他に有名なのは1979年に東京文化会館で演奏したニューヨーク・フィルハーモニック&バーンスタインの第5番。その時のライヴ版がCD化されていますが、この時の演奏はライヴ演奏の中で最も白熱していると人気を呼んだものでした。そんなわけでショスタコーヴィチといえば第5番。その有名な作品に敬意を払いつつ録音した肝心のレヴィ盤はいたって普通のテンポ。しかしムラヴィンスキーのようにロシア的な土臭さはなく、本当にブラスが鳴る鳴るアメリカ的。

 そして第9番。ショスタコーヴィチの第9は今までベートーヴェンから始まり、シューベルト、ドヴォルザーク、ブルックナー、マーラーなどが第9交響曲は最高傑作にしないといけないというジンクスのもと、大傑作を作り出してきました。が、ショスタコーヴィチは何を思ったのか第9を簡素な曲にしてしまったのです。決して大曲とは呼べない作品ですが、第9=大傑作の法則を自ら打ち破りコミカルな作品に仕上げたことで、「ショスターコーヴィチの第9交響曲はどんな大作なんだろうなぁ。」と期待をしまくっていた聴衆は当時、このぶっとんだ作品を聞いて激怒し、終いにはあきれてしまったそうな。今では激怒やあきれるなんてことは考えられませんが、当時の人にとっては重要なポイントだったんでしょうね、この第9という作品は。しかも第5楽章構成という仕組みにし、聴衆に「よっぽど長い作品なんだろうな」と思わせておいてやたら短い作品です。第1楽章からそのお茶目っぷりがいかんなく発揮され、そして終楽章ではお茶目さがお馬鹿に変わります。ひたすらお馬鹿道を進んだ挙句にあっけなく終わる作品です。

 レヴィは第5番とはうってかわって大変軽快に仕上げています。全編やたら短い作品なのにさらにテンポを上げてさらに短くしちゃってます。

 第9番はショスタコーヴィチの中で聞きやすい部類の第1位に輝く存在だと思います。全然堅苦しくない、そしてさらりと聞け、さらりと終わりますし。レヴィ盤で聞けばさらに楽しくなりますよ。

 

プロコフィエフ:交響曲第1番「古典」&第5番
指揮:ヨエル・レヴィ
録音:1990〜91年

 ショスタコーヴィチの録音と同時期に制作された同じくロシアを代表するプロコフィエフの名交響曲集。精力的活動を続けるレヴィが用意したのはプロコフィエフがハイドンやモーツァルトの交響曲に触発されて作曲した古典交響曲と第5番目にして作品番号までが100というダブルで記念すべきの交響曲第5番。第2次世界大戦中に書かれた作品で同時期ショスタコーヴィチが同じ題目で書き上げた交響曲第7番「レニングラード」とは全く違ったイメージの作品です。ショスタコーヴィチの交響曲がレニングラード攻防戦を非常に暗めに描いていますが、プロコフィエフの第5番は戦いよりもむしろ、「自由で幸福な人間、彼らの力強い才能と、純粋で気高い精神に対する賛歌」というイメージで描かれています。レニングラードより俄然聞きやすく、曲の構成もレニングラードより小さく、聴衆にとっても割かし負担はありません(もちろんレニングラードも素晴らしい曲なんですけど)。

 さてアトランタ響の得意とするブラスセクションがめいっぱい登場する第5番の前に古典交響曲について・・・。古典交響曲はハイドンやモーツァルトの時代を意識して書かれている作品なので編成も当時のような感じです。弦楽器主体で木管はFl.Ob.Cl.Fg程度。金管はあるのかないのかよく分からないところ・・・(スコア持ってないんで確認できません)。標題の「古典」という名のもと、しっかりとした4楽章編成を守り抜き、名を伏せて聞けばプロコフィエフが書いたなんて間違いなく分からないような作品です。この作品をレヴィはちょい速めのテンポでスィスィと進んでいきます。所有しているカラヤン(オケはBPO)の演奏と聞き比べてみても断然レヴィ盤の方が軽快です。

 プロコフィエフの交響曲全7曲の中で一番人気のある作品がこの第5番です。結構難易度が高いのに日本のアマチュア・オケもよく取り上げています。この作品は古典交響曲と打って変わり、大編成の作品となっています。アトランタ響のダイナミックスなサウンドが全楽章で繰り広げられています。中堅のオケとはもはやいいようがありません。レヴィのテンポ設定は毎回比較的速いので爽快な演奏を聞きたい人には是非オススメです。特に第4楽章のスピード感は非常に爽快!クライマックスの燃え滾るようなブラスセクションはもはや圧巻です。

 

次回掲載予定

マーラー:交響曲第2番「リザレクション」

ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲

ベルリオーズ:レクイエム

ホルスト:組曲「惑星」 etc...

 BGM:Mahler Symphony No.6 1st Movement by ASO